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34 できること1

「タキちゃんセンパイ……」

「……タキちゃん……休みの間に何かあったのか……?」

「……ずいぶん……その……仲良くなったな……?」


 引かれている。


 引かれているのはわかっているが、こればかりは自分でもわりとどうしようもないことだ。何しろ瀧を離さないのは梓玥のほうなのだから。

 今、瀧は食堂の椅子に座った梓玥に横抱きにされていた。


「オレも一応は抵抗したんですよ、これでも……」

「うん……あの……黎さん、さすがに大学内では目立つので……家でお願いします……」


 止めろとは言わないので、と真岡に言われると、片手でパソコン操作をして片手でコーヒーカップに口を付けた梓玥はカップを置いて思案げにした。


「倭国ではこういう触れ合いは一般的ではない?」

「そうですね……ふたりきりの時はあってもいいと思いますが、人前ではないですね……」

「そう……」


 こんなにもわかりやすい『渋々』があるだろうかと思うほど渋々と、梓玥は瀧を隣の椅子へ下ろした。梓玥が気配を消してくれているから他の生徒たちからはわからなかっただろうが、そうでなければ注目を集めていただろう、色んな意味で。


(オレが前世の記憶を取り戻してから、この調子なんだよなぁ……)


 どこにも行かないし逃げもしないのだが、梓玥はそう思っていないのか。梓玥は瀧からずっと離れない。


「黎センパイ、パソコンで仕事すか?」


 物怖じしない嶋田が問いかける。


「仕事、ではない。調べ物をしていた」

「調べ物?」

「そう。ふたつの事件について。……解決していないから」

「ふたつの? って?」


 西山が首を傾げると、嶋田が手を打つ。


「あ! あれじゃないすか、プールとこの前の動画と」

「え? でもあれ、水落鬼は黎サンがどうにかしてくれたし、動画だって削除してもらっただろ?」

「でも『誰がやったか』はわかんないままじゃないすか」

「あたり」


 梓玥の簡潔な答えに嶋田は「やった!」と無邪気に喜ぶ。


「嶋田おまえ、相変わらず変なとこ鋭いな……」

「やだなあ真岡センパイ、褒めないでくださいよ」

「いや別に褒めてはないけど」

「褒めてくださいよ!」

「どっちだよ」


 笑い合う三人を見つつ、瀧が梓玥を見る。脱線を戻したかった。


「で、手がかりとかあるのか?」

「多少は。水落鬼のほうがわかりやすい。あれは、誰かが水落鬼を連れて来なければ発生しない事件」

「ってことは……」

「大陸から水落鬼を連れてきたってことで……」

「飛行機? だと手荷物検査で引っかかるかな?」

「連れて来られるくらいの力を持ってるなら、陰陽師か神族かってところだろ?」

「じゃあ……どういうことだ、真岡」


 西山が真岡へ解説を求めると、真岡は眼鏡のブリッジを指で押し上げた。レンズが光った気がした。


「つまり、事件発生のちょっと前くらいに大陸に行って帰ってきた、あるいは大陸から来た誰かのせいだよな? で、水落鬼は鬼だから、扱えるのは陰陽師か神族だけになる。獣人はそういう能力はなかったはずだから」

「あとは荷物じゃないですか。水落鬼を何かのケースに入れられるなら、大陸にいる誰かが倭国にいる誰かに向けて送ることもできるし……ちょっと時間かかると思いますけど」


 瀧の言葉にも全員が「なるほどなぁ」と頷く。

 何かに気付いた西山が「あれ?」と疑問の声を上げる。


「でも逆に言えば、それしか手がかりないじゃん? どうやって調べるの?」

「渡航歴や積み荷の一覧をチェックした。……したのは私ではないが、そのチェックが終わったものをさらに別のチェックにかけていた」

「というと?」

「渡航や荷物の差し出し、受け取りに陰陽師や神族が関わっていないかどうか。親類縁者すべてにおいてのチェック」


 こともなげに言うが、そのチェックは果てしなく面倒そうだし大変そうだ。


「そうでもない。航空券や渡航券の氏名と戸籍等の住所や年齢その他諸々を書式をすべて揃えて、条件を指定すればすべてはじき出せるようにしてある。万が一、架空の情報で渡った者がいてもわかる」


 個人情報保護法は? と喉まで出かかったが、相手は神族だし神様だ。言うだけ野暮というものだろう。


「動画のほうは、削除の前に情報は抜いてある。だがこちらは芳しくない。向こうも情報を取られることをわかっていて制作した、ということだろう」

「じゃあ、特定は難しい……?」

「方法がゼロというわけではない。ただ、やろうとしている方法は私しかできない上に、正確性を期すなら日時を選ぶ。そのためにはあと数日必要……というところだろうか」

「じゃあおれたちにできることといえば……」


 何かあるだろうか。西山と嶋田が考え込むところ、真岡は腕を組んだ。


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