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03 怪異と出会いと2

「……ほんとに怪異じゃなけりゃいいけど……」

「意外と心配性ですね、西山さん」

「だって、今の話だと本当に『怪異』で『連れ去り』なら、原因は妖魔鬼怪(ようまきかい)だろ。そんなのおれたちの手に負えないじゃないか。おれたちは不思議事象を面白がるだけなんだから」

「でもタキちゃんセンパイがいますし」

「オレ?」


 嶋田の発言に首を傾げる。嶋田は不思議そうに返してきた。


「家が陰陽師なんでしょ?」

「家は陰陽師だけど、オレは違うぞ。適正ないし、せいぜい勘がいいとかそれくらいだし」


 実家の壬司(みつかさ)家は陰陽師家としては名門らしい。この倭国の鎮守をほとんど任されている土御門家に次ぐ地位にあると子どもの頃に聞いた覚えがあるが、自身に陰陽師としての適性がほとんどないものだから、実感は薄かった。


(陰陽師としては劣等生だからなぁ……)


 そのことで、兄ふたりに対する劣等感がないとは言わない。親の期待もないのは、今となっては気楽ではある。

 西山が笑った。


「タキにはシロもいるからなー」

「去年はずっとタキの勘とシロに助けられたようなもんだもんなあ」


 真岡も頷いて賛同する。


「黒狐なんでしたっけ? なんで黒いのにシロなんですか?」

「色と逆の名前付けたほうが可愛いかなって」

「……よくわからないセンスっすね」

「ともかく! マジでマジなやつだったら企画段階で没ってるよ。……おっと、道はここまでか。必要な物だけ持っていくぞ」


 車は真岡の愛車の中古車だ。曰く「レンタカー借りて何かあった時の弁償代がこわい」という理由で自前の車らしい。

 四人がそれぞれ車から降りる。五月の、そろそろ強くなりかかっている日差しを避けるために帽子をかぶって長袖長ズボンの動きやすい軽装なのは全員同じだ。けれど腰にペットボトルを提げた以外は手ぶら、ボディバッグだけ、小ぶりなリュックとサコッシュ、と各自の持ち物には大きく差がある。


「嶋田、荷物多くないか?」


 瀧の指摘に、西山がまじまじと嶋田の装備を眺める。


「リュックとサコッシュ……リュックには何が入ってるんだ?」

「何かあった時にどうするんすか。非常食と飲み物は必須ですよ」

「おまえが一番生き残れそうだな……まあ俺たちも簡単な非常食と飲み物は持ってるけど」

「オレも携帯食料と水はあるし……西山さん真岡さん、一蓮托生ですよ」

「いやな一蓮托生だな……」


 軽口を叩き合いながら、真岡を先頭に意気揚々と歩き始める。

 道らしき道はほとんどない。草木に埋もれそうになった獣道らしき道が途切れ途切れに続いている。半分くらいは登山だ。この獣道のような道も、かつては麓の街に続く道だったのだろうかと思いを馳せる。


(こういう道を歩いてる時が、一番わくわくして楽しいんだよなー)


 冒険心が疼く、というやつだ。もちろん安全が保証されている場合に限り、気楽でいられる。

 最後の仕上げのように藪の中を突き進み、全員が無言になっていた頃に真岡が「着いた!」と一言簡潔な声を発した。


「着いた?」


 藪から急に視界が開け、自分たちがいる場所が廃村より少し高い場所だったことを知る。


「これは……」

「いい感じに朽ちてますね……」


 木造の家、だったらしい建物の面影はあちこちにある。かつて人が住んでいた名残だ。けれどそれらの大半は木々や雑草に覆われているし、丈夫な雑草が板壁を突き抜けているのは、自然が逞しいというべきところか。

 田畑はどこがどうだったのかわからない。もはや野っ原だ。畦道や家の前にあっただろう道は「おそらくはこのあたりが」というレベル。


(廃村とかのいいところって、こういうとこだよな)


 空の青と、地の緑の力強さ。

 別の廃村を見た時にも感じた、清々しい悲しさがそこにあった。

 この村は廃村となってからかなり時間が経っているらしく、入れそうな建物や遊べそうな場所はなさそうだ。ひと通り見学して回ると携帯食料などを食べ、水分補給をしてから車で別の場所へ行こうと全員が合意する。


「じゃ、来た通りに帰るぞ」


 来た通りというのも難しいが、真岡はあちこちに目印をつけて歩いているから大丈夫だろう。方向感覚も良い男だ。

 そうして、藪から山道に入って少しした時、西山が「あれっ?」と声を上げた。


「なあ、さっきっていうか今、ここ通らなかったか?」

「えっ、そんなベタな……」

「似たような風景だからそう思うんじゃないですか? ここオレたちが歩いた跡ありますし、来た道でしょ」

「…………」


 無言で立ち止まった真岡がポケットからスマートフォンを取り出す。


「一応現在地を確認するぞ」


 彼の周り、彼のスマホを取り囲むように三人が集まる。真岡が眼鏡の位置を直した。こういう時にはだいたいシリアスな場面だ。

 表示された地図アプリを全員が覗き込み——無言になった。


「…………」

「…………」

「…………」


 現在地点がどこにも表示されない。縮尺を変えてもダメだ。


「あー……」


 真岡が半笑いになる。西山が空を仰いだ。瀧も溜息を吐く。


「怪異ですか……」

「だな……」

「それしかないな……」

「マジすか……」


 遠くで鴉が鳴いた気がした。空気がざわざわとし始める。


(……なんか鳥肌たってきたな)


 良くない合図だとはわかっていた。過去の経験がものを言っている。


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