20 対面1
「ふぁ……」
欠伸が漏れた。いつもの夢のせいだが、いつもより映像が鮮明だった気がする。
「……綺麗な子だったな……」
あの夢を見た時によく思うが、竜の子は今までに見たことがないような綺麗な顔や姿をした子だった。今までの夢より成長していたようだから、余計にそう思えたのかもしれない。
「それにしても、夢って続き物になるのか……」
「瀧?」
「っはい!?」
不意に声をかけられたので、思わず返事が裏返った。梓玥と一緒だったことを思い出させられた。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
「ぼんやりしているみたいだったから」
「あ、ああー、ちょっと、今日見た夢のこと思い返してて……」
「夢? どのような?」
「ええー……聞きたい?」
「聞きたい」
梓玥の顔は真剣だ。真っ直ぐに見つめてくるものだから、少しばかり居心地が悪くなるのは仕方がないと思ってもらいたい。
(他人の夢の話って、楽しいかなあ)
いっそ破天荒な夢なら楽しいかもしれないが。
そういえば出会った日に梓玥の私室でも夢のことを話した覚えがある。そんなに面白い夢とも思えないが、もしかして梓玥は夢を見ないタイプだから面白がってくれているのかもしれない。傍目には表情がほとんど変わらないからわからないけれど。
「……つまらないかもだけど……」
今日見た夢の内容を聞かせる。どこか森の中の家で閉じ込められている自分あるいは自分が憑依している人物、何度もやってきた綺麗な子どもは成長して竜になっていたこと。子どものわがまま。
話を進めるごとに梓玥の顔が真剣さを増していく。そんなに真剣になるほどの内容だろうか?
「……って感じだったのが今日の夢。変な夢だろ? 子どもは可愛かったけど」
「変だとは思わない」
きっぱり断言した梓玥は瀧を真剣に見つめていたが、やがてふっと視線を逸らす。
「私が君の家に邪魔させてもらうから、おかしな夢を見せたのかもしれない」
「あ……ああ……」
今ふたりで壬司家へ向かっているのは、梓月が瀧の実家へ行きたいと言っていたから、案内しているのだ。
(……大丈夫かなぁ……)
梓玥の正体は、梓玥が何も言わない以上、推測でしかない。両親には一応、前もって話をしてある。ありのままを話したが、やはり深刻な顔をされた。
日頃国内をあちこちと飛び回っている両親と兄ふたりが久々に揃った夕食の席で話を切り出してしまったため、通夜の席のような夕食時間となったことは反省しておきたい。
「うちなんて、まあちょっと陰陽師ってこと以外はあんまり普通のヒトの家庭と大差ないと思うけどな……」
取り立てて梓玥の興味を惹くようなものはない、と遠回しに言っても、彼がそれを気にする様子はなかった。
「あ、ここがオレの家」
瀧の自宅は和洋折衷の造りで平屋だ。家の周りをぐるりと塀と生け垣が囲っていて、それなりの広さがある。由緒ある家ではあるのだが、広大というわけではない。
本来ならもっと広くてもいいのに見合わない規模の家は、陰陽師としての壬司家を分離させているからだった。ここは住宅としての壬司家だ。
ドアの鍵を開けると、ちらりと梓玥を見る。
「いらっしゃい、……ませ。どうぞ、お上がりクダサイ」
「ふ。……いつも通りでかまわない」
「いや……オレや梓玥サンは良くても、両親に兄さんたちもいるから……」
ひそひそと話をし、客間へと案内する。接する時間が長くなり、最初よりはよほど打ち解けてきたような気がするが、改めて彼のことを考えると両親には卒倒されてしまう気がする。
(一応、古い家だからなあ……)
伝統や格式、格差には敏感なところがある。それが良いとも悪いとも言えない。
客間は和室だが、机を挟んで父母と兄ふたりがそれぞれ並んでいる。瀧の席は当然、一番の下座だ。
座布団は新品のふかふかとした良いものが出されている。きっと新調したのだろう。畳まで新しい気がする。
本来なら父親が出迎えるべきところだったが、あくまで「学友として」という名目を使われたため、瀧が内に案内した。梓玥が気を害した様子はなさそうだ。




