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17 水落鬼4

「黎センパイ、その、水の塊は……?」


 全員の興味は、梓玥の傍らへと移ったようだった。瀧もそちらのほうへ行く。おそるおそると嶋田が尋ねたのは、梓玥はちらりとふわふわと浮いている水の塊だ。


「中にいる」

「中!?」

「触らないように。危ない」

「あっ、ハイッ」


 顔ごと突っ込みかけた西山が慌てて止まる。好奇心の塊のような男だが、梓玥の言葉には素直に止まるくらいの理性はあった。

 水の塊の中にいるのは、子どものようだった。かつては服だったらしい襤褸布を身に着けていて、顔色はひどく悪い。


「幽霊……じゃ、なさそう……?」


 質量がありそうだ、と嶋田が言う。西山も同意して頷いた。


「幽霊ならすり抜けそうだもんな」

「妖魔鬼怪でいえば魔? 霊じゃないし元はヒトっぽいし」

「妖と怪はヒト以外のものだっけ? 妖が獣で怪は植物とか事象とか……魔がヒトの上位存在の成れの果て? 魔じゃなくない?」


 真岡が首を傾げると、西山も首を傾げる


「あれ? じゃあどれも違うじゃん」

「鬼って可能性もありますけど」

「あ、そうか。鬼のほうがヒトに近いか。幽霊ともちょっと違うし……」


 大陸では同一視されるようだが、倭国では幽霊と鬼は別のものだ。幽霊は実態を伴わないもの、鬼は時に実体を伴うものと区分されている。水牢に閉じ込められた子どもは、どちらにも見えた。

 答え合わせを頼むかのように、全員が梓玥を見る。梓玥は小さく頷いた。


「……これは、水落鬼という」

「水落鬼? って大陸の鬼?」


 西山が持っている知識の中に存在した単語らしい。彼はオカ研に関することについてはよく勉強する。


「倭国では、大陸に存在する神や妖魔鬼怪、怪異の類は倭国でも存在する――と考えているようだが、それはだいたい合っている。ただ、この水落鬼は実際に大陸の河で溺れ死んだ子どもの成れの果てのようだ」

「? 大陸で死んだ子が、なんで倭国に?」


 香山が純粋な疑問を呟き、首を傾げる。


「勝手に来るってことはないよな?」

「西山、なんか条件あったろ」


 真岡に名指しされた西山が「ええと」と前置きし、数秒考えてから口を開いた。


「亡くなった子が河や海で溺れ死んだ場合、倭国に流れ着く可能性はある。あとは……これをしてどうするって話だけど、連れてくるって場合もあった、はず」

「連れてくる?」

「大陸から?」

「そう。……どうやって、とかはおれに訊くなよ。そこまで知らないから。ただ、河や海からここまで流れ着くのは、ちょっと考えづらいだろ? 大陸は倭国海側だけどここは太平洋側だし。それにプールだし。だから誰かわからないけど誰かに連れて来られた、ってとこじゃないか」

「正解」


 梓玥の言葉に、密かに西山が腕だけでガッツポーズを作る。嬉しかったらしい。


「この子は誰かに『両親に会わせてあげる』と言われて連れて来られ、ここに置いて行かれた。けれど両親はおらず、淋しくて友達がほしかったようだ」


 さすが上位神族と言うべきか、梓玥は水落鬼の言葉もわかるようだ。神族なら誰でもわかるわけではないだろうから、本当にオカ研には得がたい存在であると同時、そんな上位神族の中でも最上位、竜の貴族ともいうべき方(予想)がここにいるのは本当に恐れ多い。

 そんな方がどうして瀧に興味関心を持っているのか――


(さっきの、狐の姿が要因のひとつなのかな)


 他に関心を持たれるようなことが何ひとつ覚えがないから、きっとそうなのだろう。鏡で見たかったところだが、両親ともヒトなのに、どうしてあんな姿になったのか。


(……今考えてもわからないか)


 何しろ心当たりがないのだから。

 それにしても、水落鬼の身の上は憐れだ。


「両親……」


 見かけは十歳にも満たない子ども。まだ親が恋しい年齢だろうことはわかる。


「本人はいつ亡くなったのかわからないようだが、見た目から察するに七十年は経っているだろう」

「それは……じゃあ、親は」


 とうに亡くなっていてもおかしくない年月だ。

 こういった鬼は未練をなくさせるのが一番早い滅し方だとオカ研の面々は知っている。だが、それも難しそうだ。


「……子どもなんだよなぁ……」


 西山が唸るように呟く。



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