11 怪異と出会いと10
目を開けるのが怖くて、開けるか躊躇していた時だ。
「……君が怪異を引き寄せる天才なのか?」
「っ?」
慌てて目を開け、声がしたほうを向けば、この邸宅の主であろう彼が傍にいた。
月明かりの下で見る彼は、夜を統べる者のような落ち着きと静謐な美しさがある。きっと男女問わず彼には見惚れてしまうだろう。
(助かった……)
きっと、彼がまた怪異を祓ってくれたのだ。安心して息を吐く。
「いや、別にオレじゃないと思いますし、今のはオレのせいかもしれないですけど今日に限って言えば西山さんのせいです。今までこんなことはなかったんですが……」
言葉は言い訳がましくなったが、事実だと思う。
青年は気にした様子もなく、瀧を見る。
「……どうして庭に?」
「おかしな夢を見て目が覚めて、眠れなくて……気分でも変わるかと思って庭に出てみたんです。……すみません」
「構わない。……どんな夢を?」
「え? ええと……夢の中でオレは狐神族で、小さな家に住んでて……小さな竜の子どもが遊びに来た、っていう夢なんですけど……」
「…………」
美形に真っ直ぐ見つめられるのがこんなに居心地が悪いものだとは知らなかった。瀧は変に目を逸らすこともできず、内心で狼狽える。
急に彼に手を取られた。
「……来て」
答えはイエスしか許されないから、頷いて手を引かれるままついていく。心臓はばくばくと鳴りっぱなしだ。
庭をぐるりと周り、廊下に上がっていくらか歩いて角を何度か曲がって着いた先は、どうやらこの青年の私室のようだった。ふかふかのソファを勧められ、おそるおそると腰掛ける。
(お尻が埋まりそう……)
こんな上等なソファがあるのか、と思うほどふかふかだ。そんなことを思うのも現実逃避だと自分でわかっていた。
「……おかしなことをいくつか訊くが、答えてくれたら嬉しい」
「は、はい」
「君は本当に陰陽師ではない?」
「はい。小さい頃に素養を調べてもらって、さっぱりないって結果が出ましたから」
あの時、両親は怒りも哀しみもしなかった。淡々と受け入れていたように思う。
「ただ、式神を呼び出すことだけはできたので、まったくゼロではないかもしれませんが……それだけです」
「ふむ……」
思案げに人差し指でくちびるを撫でる仕草から、目を離せない。それから、ふと何かに気付いたように顔を上げた。
「先ほどの話に出たような夢を、今までに見たことは?」
「ええと……あります。同じような夢を、小さい頃から何度も。たまにしか見ないんですが……最近は結構見るかも。ああ、今日も見ました」
「どのような?」
「泣いている子どもの竜に、何かをあげる……渡す? 夢でした」
言うと、彼は瀧から視線を逸らし、俯く。
「……君は、その時、どう思った?」
「え?」
「その、竜の子どもに。何か思わなかったか?」
言われて、少し考える。あの夢の中の感覚を思い出すように。
彼は急かさず、待ってくれていた。
「……綺麗な顔をしているから、泣かないでほしい、っていうのと……わかってたからいいんだよ、と」
夢の中の自分はその結末になることがわかっていたようだった。自分で決めてそうしたのだから、竜の子には自分を責めないでほしいと思っていたし、そう言っていた、ようだった。
「あとは、渡したものをずっと持っていてくれると嬉しいな、みたいな……そんな気持ちだったと思います」
「……そう」
目を伏せた彼は、小さく頷く。
「ありがとう。部屋に温かい飲み物を用意しておくから、飲んで休むといい」
上位種族からお礼を言われて心底から驚いたが、瀧のほうも「ありがとうございます」とお礼を返し、部屋を辞した。
かえって眠れなくなるのではと危惧したが、部屋に用意されていたスープを飲んでベッドに横になれば、知らない間にすっかり眠りについていた。
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