二話
翌日、早速私のお見合いについて噂が広がったらしく、おそらく噂を広めた張本人である団子屋の奥さんに店前で声をかけられた。
「紗穂ちゃん!お見合い決まったんだって?おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
あまりの勢いと声量に少しぎこちない返事で返す。
「本当になんだか私まで嬉しいわ、嬉しすぎて隣の奥さんにすぐ話しちゃったくらい!」
「そうなんですね、はは…」
予想が的中し思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「もー本当にびっくりしてね!あ、びっくりってもちろんいい意味よ!それでね…」
なかなか終わらない話にぎこちなく相槌を打ちながら私は内心驚いていた。自分は周りから煙たがられているものだとばかり思い、ここまでの反応があると思っていなかったからだ。
「あとね…ってあ!お店開けなきゃ!ついつい話し過ぎちゃったわ」
気がつけば周りのお店がちらほらと開き始めていた。
「紗穂ちゃん頑張ってね!こんなおばちゃんだけど精一杯応援してるわ!」
そう言って奥さんは小走りで自分のお店に戻って行った。
店の中に戻るとお母さんが今日渡す予定のお客さんの洋服を確認しているところだった。手伝おうと隣に座るとお母さんは手を動かしながらこう言った
「団子屋さん、なんだかんだで昔から紗穂のこと気にしてくれてたわ」
どうやら先ほどの会話が聞こえていたらしい。
「紗穂が小さい頃お父さんと団子屋さん行ったらおまけしてもらってねえ、両手に団子持ってすごい笑顔で帰ってきたことがあったのよ、覚えてる?」
「そうだったかな、あまり覚えてないかも」
懐かしいわね、と笑いながら話していたが少し間が空いた後、お母さんは一呼吸置いて口を開いた。
「紗穂なら大丈夫よ」
「え?」
一瞬何のことかと思ったがすぐにお見合いのことだと分かった
「不安なことが沢山あるだろうけど、それ以上に楽しいことが待ってるはずよ、きっと」
「そうかな、そうだといいけど」
するとお母さんは洋服から手を離し、私の両手を優しく包み込んだ。
「この先何があってもお母さんとお父さんは紗穂のことが1番だから、私達の自慢の娘ならきっと大丈夫。向こうに行ったらこっちのことは考えなくてもいいわ。」
「そんなことしたらお父さん泣いちゃうよ」
「それはそうね」
2人同時に笑い合う。一緒に笑っていると少し緊張の糸が緩んだような気がした。ひとしきり笑い終わるとお母さんはこちらを向いて私をそっと抱きしめた
「帰りたくなったら、いつでも帰ってきていいからね」
その声は震えていた。多分これがお母さんの本音だろう。一度娘があんな目にあっているのに不安にならないわけがない。
背中をさすりながら大丈夫、大丈夫よ。と言う優しい声に私はただ頷き、その背中をぎゅっと抱きしめ返す。きっとうまくいく、大丈夫。その言葉を胸に紗穂はお見合いの準備を進めていった。




