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追放された令嬢、森の中でオッサンに出会う(修正版)

作者: 緋色刹那

 無実の罪で国外追放を言い渡されたとき、令嬢はこれ以上の地獄はないと信じておりました。隣国の親類貴族のもとへたどり着けば、忌まわしき過去として忘れ去れると。


 だのに、運命とはなんと残酷でありましょうか。国境まであと一歩のところで、山賊に扮した刺客どもが襲いかかってきたのです。


「ヒャッハー! お嬢様、お命頂戴いたします!」


「貴方達、山賊になりきれてなくてよ?!」


 令嬢は身一つで森へ逃がれました。そこで、さらなる不幸と遭遇しました。


「ひっ」


「……」


 猟銃を背負った無精髭のオッサン。オッサンは血に飢えた猛獣のように、令嬢を睨みつけます。


 令嬢が恐怖で固まっていると、オッサンはぶっきらぼうにたずねました。


「あんた、どこのもんだ?」


「り、隣国の……モンブラン家の者です。モンブラン・ドゥ・マリアンヌと申します」


「……なるほど」


「お願い、何も聞かずに見逃して! 追われているの! 捕まったら、殺されてしまうわ! 野リスでも見かけたと思って、頂戴!」


「そういうわけにはいかんな」


 オッサンは「ついて来い」と令嬢を小屋へ連れて行きました。令嬢は猟銃が気になって、逆らえませんでした。


  ◯


「入れ」


「……はい」


 恐る恐る、小屋へ足を踏み入れる令嬢。


 ーー次に外へ出るのは、刺客達に殺されるときだわ。


「座れ」


「はい」


「スープと肉とパンだ。食え」


「はい」


「美味いか?」


「はふはふっ。おいふぃでふ」


「今日はもう遅い。この部屋のベッドを使え。部屋のものは勝手に使ってくれて構わない」


「まぁ、可愛らしいマスコット達! どこでお買いになったの?」


「儂が作った」


「おじさまが……?」


「趣味だ」


 オッサンは気恥ずかしそうにそっぽを向きました。


 ーー良い人だわ、この方。


 令嬢は気づいてしまいました。オッサンは、とても優しいオッサンなのだと。


 今夜は安心して眠れそうだわ、と令嬢はホッとしました。


  ◯


 夜、憲兵が小屋を訪ねてきました。カーテンの隙間から覗き見たところ、憲兵の格好をした刺客達でした。


 令嬢は青ざめ、出ようとするオッサンを引き留めました。


「出てはダメ! 私、あの人達に命を狙われているの! きっと、おじ様も殺されてしまうわ!」


「問題ない。君は隠れていなさい」


 オッサンは猟銃をたずさえ、一人で表へ出ました。


「こんばんは。このあたりで貴族の娘を見かけませんでしたか?」


「知らんな」


「念のため、小屋の中を見せてください。入り込んでいるかも」


「お前達こそ、見ない顔だな。どこの所属だ? 本物の憲兵を呼んで確認させようか?」


「なッ?!」


「いいから入れろ!」


 強引に入ろうとする刺客達。


 オッサンは空に向かって三発、猟銃で威嚇射撃をしました。すると、本物の憲兵が馬に乗って現れ、いとも簡単に刺客達を捕えてしまいました。


「わ、我々は隣国王太子の親衛隊だぞ?!」


「貴様らこそ、このお方を先代王ハイディン様と知っての狼藉か?」


 なんということでしょう。オッサンは隠居中の隣国先代王ハイディンだったのです。


 令嬢は驚きました。モンブラン家と隣国王室は遠い親戚で、ハイディン王とも何度か面識がありました。無精髭で顔の下半分が隠れていたせいで気づけなかったのです。


 憲兵も王専属の騎士でした。刺客達を「先代王の命をねらった不届きもの」として、どこかへ連れて行きました。


  ◯


 戻ってきたオッサンを、令嬢は問い詰めました。


「なぜ、猟師の真似事を?」


「森での生活が楽しくてな、帰る気がせんのだ。国は、新たに王となった長男が上手くやっておるし」


「私もここにいさせてもらえませんか? 親類貴族が、私を政治的に利用しようとしているそうなのです。ご迷惑はかけません。家事でも狩りでも、なんでもしますから。それと、マスコットの作り方も教わりたいです」


 オッサンは「好きにしろ」とぶっきらぼうに言いました。


  ◯


 その日から、令嬢はオッサンの親戚の娘として、共に暮らし始めました。捕まった刺客の証言により、令嬢の無実は証明されましたが、国には戻りませんでした。


 令嬢とオッサンが作ったマスコットはお守りとして人気になり、隣国の名産になりました。特に、野リスのマスコットが人気でした。


 オッサンの次男とも仲良くなりました。隣国の王の弟で、大臣をしています。森を気に入り、休みの日は王の様子見がてら、仕事を手伝いにきていました。


 やがて、令嬢は次男と結婚。森を出て、王都で暮らすことになりました。「おじ様も一緒に暮らしませんか?」と提案しましたが、断られました。


「おじ様、一人で大丈夫? 寂しくありません?」


「お前さんが来る前は一人だったんだ。元に戻るだけさ」


 森を発つ日、オッサンは外で薪割りをしていました。令嬢を見送る気はないようでした。


 ーー私が失礼なお願いをしたせいで、怒らせてしまったんだわ。


「さようなら、おじ様。お元気で」


「あぁ」


 オッサンは令嬢に背を向けたまま、ぶっきらぼうに言いました。


「幸せになりな」


「っ、はい!」


 令嬢は涙をこらえ、馬車に乗り込みました。王都に着くまでの間、遠ざかる森を見つめながら、オッサンとの日々を思い出していました。


〈終わり〉

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