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次元を超えて  作者: 松に麻
第一章 稀人
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三、心の故郷


 ここはかつて、緑豊かで広大な平原を持つ、よくある凡庸な島だった。ところが、度重なる地殻変動に島の全貌は一変し、折り重なる気象条件が世界に唯一無二の稀有なる景勝を生み出した。季節と時間帯に応じて、その大小や濃淡、角度などは変化すれども、決して絶える事のない光の架け橋を擁するこの土地の名は、虹の国ドゥティリカラン。

 衛星コロコンタにて第二の人生をスタートさせたフェリペは、16万以上も存在する地区の中から、とある文献に深く心惹かれると、是が非でも、その地に赴かなければという強い衝動に駆られていた。

『嗚呼、偉大なる創造主よ•••

 如何に我等が光の力を収め得て、波動の理を解こうとも、斯くも壮麗な輝く芸術を成し得る事は未来永劫有り得ぬだろう••• 

 人々は今日もその美しさを賞賛し、称呼する。私は今、『夢』の中に居るのだと•••

 そう。ここは正に、我々コロコンタ人の心の故郷(よりどころ)。『夢』そのものなのである••• 

             ゼゼ・コチュデツァンバ・ディディー』 

(言うね〜、ゼゼさん••• 貴方が誉め讃えた虹の国は、今では全加盟星に知れ渡っている様だ。連盟屈指の保養地として•••) 


「3201便の彩虹ツアーに参加される方は、中央広場の集合場所にお急ぎ下さい」

 アナウンスに従って指定箇所に着くと、卵を寝かせた様な流線形の乗り物の中には既に二十三人の人が居た。全体に『玉』で見た物と同じ膜が張られ、前方には円いスペース、後方には奥に行く程高くなっていく座席が設えられており、見たところ空席は、先細りになっている最後尾にしかなかった。

 フェリペが着席して間も無く、中に人の顔を映し出す、球状に縁取られた光の輪郭が前方のスペースに現れた。

「この度はショートトリップ、彩虹ツアーにご参加頂きまして、誠にありがとうございます•••」

 他の乗客達は皆、挨拶口上に興味はなさそうだったが、フェリペは一人、違う事に感心していた。

(どこをどう見ても、レンズの様な物は見当たらない••• 照射や投影じゃないなら、あれもまた、空気中の素粒子を結合させているのだろうか?)

 メガネを使った三次元ディスプレイとは根本的に異なる視覚化技術に、フェリペはすっかり童心に返っていた。

 フェリペの気持ちが浮き上がると、奇形な乗り物も宙に浮き上がった。

「それでは皆様、心の準備は宜しいでしょうか? そろそろ参りますよ〜。ショートトリップ!」

「!」

 一瞬の暗闇の後に空の紫が見えたと思うと、そこはもう、さっき迄の場所と同じではなかった。

「皆様、ここから先は、どうぞご自由にお席をお離れ下さい」

 そう言って図説に変貌しつつ、光の輪郭は解説の進行に合わせて刻々と展開していった。

「あちらに見えますのは太古に起きた大陸移動にて、円弧形をした大地と絶海の孤島がぶつかり合う事で隆起した、標高5275・9ギラ(16804m)のベリンダ山脈であります」

 フェリペはその映像を歩きながら見ていたが、それはどこにいても常に、フェリペの正面を向いていた。

(へぇ〜、個々の視点に対応するのか〜)

 フェリペがどんな司会者よりも有能だと感心していると、説明は着々と進んでいた。

「このベリンダ山脈がそれぞれの気候風土を激変させました。西側に広がる弓状地は、海を渡りくる湿った風が高く連なる山々に遮られて雲となり、大量の雨を降らせる事で世界一の雨林に転じ、反対に東側の小さな陸地は、年間を通して全く雨の降らない砂漠と化しました。しかしながら東の地は、そこで見捨てられはしませんでした。活発なマントルの動きによって水平方向に伸張された地殻がひび割れ、そこに生じた断層が沈降して、長さ601ニュギ(1914㎞)、幅122ニュギ(388㎞)の広大な地溝帯が出現すると、同時にできた巨崖より流れ出る大滝が潤いを(もたら)し、恵みを育んで、かの著名人に『夢』と言わしめた、幻想的な世界を作り上げたのです」

 次々と移ろいゆく自動式立体動画は、壮大な天変地異の歴史物語を紐解くと、再び球状に戻った。

「皆様、これより当ルパカンタ(乗り物)は実際の水脈を通って、滝より流れ落ち、その水瓶であるゲニ湖へ至る路を参ります」

 説明の後に、雪の降り積もる切り立った峰を目掛けて下降していったルパカンタは、減速する事なく、その白い山肌に突っ込んだ。

「危ないっ!」

 激突を想像したフェリペは強張る顔を咄嗟に両手で覆い隠し、視線を背けた。

「何してるんだ? ガキじゃあるまいし•••」

 隣人にそう言われ、フェリペは赤面を抑え切れなかった。

(山を粒化しているのか! 恥をかいた•••)

 フェリペが連盟の科学水準に順応するには、まだまだ時間が必要だった。

 膜の外は、白、黒、灰色に茶色が入り混じる殺風景な世界だったが、地層に微妙な湿り気が見て取れる様になると、情景は徐々に変わっていった。

 サ〜という音が下の方から聞こえ始めた。

「皆様、お待たせ致しました。当ルパカンタは只今、水脈に到達しました。これよりは無推進状態となり、水の流れに身を任せて参ります。その間、客室内は無重力化されますので、安定的な静止をご希望されるお方は定静室(ていせいしつ)の方をご利用下さいます様、宜しくお願い申し上げます。尚、お手持ちのお荷物等はお座席の保管箱にお仕舞い頂き、且つ、衝突の危険性を考慮し、お客様お一人お一人に弾撥膜(だんぱつまく)を掛けさせて頂きます事、何卒ご了承下さいます様、宜しくお願い申し上げます」

 乗客全員の手荷物の収納が確認されると、次に膜が掛けられた。

(まさか、あのプチプチに入る日が来るなんて•••)

 フェリペは気泡緩衝材の中に封じ込められた気分だった。

 ブゥーン••• 一瞬、高い周波数の音が耳に入り、フェリペは体の重みを全く感じなくなった。試しに少しだけ爪先に力を加えてみたら、体はいとも簡単に宙に浮いた。

「凄いな! これが真の無重力状態か〜」

 それは、今迄に体験した遊園地の乗り物や乗車中の急な段差による瞬間的なものとは全く違うものだった。

 ルパカンタの入水は後戻りの効かないアトラクションの開始を意味していた。始めの内は水量も少なく、それ程激しく揺り動かされる事はなかったが、音量が増すにつれ段々と振動が強まってくると、客室内はまるで、スクランブルエッグの様相を呈していた。

「ほえ〜っ•••」

 フェリペが全体の動きに身を委ねてあちこち飛び回っていると、目下子供達はキャッキャッと喜びの声を上げて自由に飛び跳ね、そのはしゃぎ様は見ていて微笑ましかった。

(子供はどの星でも同じなんだな〜)

 フェリペは素直にそれが嬉しかった。

 ある程度の水を貯えるちょっとした淵に出ると、そこは、美しいエメラルドグリーンの輝きを放っていた。

「綺麗だ。不純物が少なく、全く濁りがない」

 落ち着きを取り戻した客室の中で、フェリペは暫し、水の清らかさに見惚れていた。

 ルパカンタはゆっくりと進んで行った。

 ポチャポチャッという音が聞こえる、幾筋もの小さな滝が注ぎ込む深みに行き着くと、また光の輪郭が姿を現した。

「皆様、ここから先は今の様に小休止できる地点は一切なく、一気に目的地へと参ります。水嵩も増え、流れは更に強くなりますので、その旨、お心にお留め下さいます様、宜しくお願い申し上げます」

 淵の終わりに差し掛かって、早瀬が顔を覗かせると、ルパカンタは速度を速めた。

(さあ〜て、ここからが本番か〜)

 フェリペは前を上回る掻き混ぜ状態を頭の中に描き、勝手にゾクゾクしていた。

 勾配に入った瞬間から客室は再び騒がしくなり、乗客達は慣性力に吹き飛ばされて、後方へ投げ出され、クルクルと回転しながら客席へ叩き付けられた。が、膜が真価を発揮すると、各々客席に突き返されていた。

(へぇ〜、結構強くいったと思ったが•••)

 接触の瞬間フェリペは、膜内の小さな気体の層が掛かった圧力に反発するのが見えた。

 ザザ〜ッという大きな音と共に、滝が差し迫っていた。

「来たぞ〜!」

 客の一人が声を上げた瞬間、乗客達は一斉に後方へ集められ、落差約20mを落ち切ったところで、一度前方へ戻された後に、四方八方へと攪乱させられた。

 今や三次元の立体ビリヤード台となった客室を舞いながら、フェリペは昔の事を思い出していた。

(子供の頃、アロンソの家にあった狭い収納部屋で、バケツいっぱいのスーパーボールを壁にぶちまけて、よく遊んだな〜。初めは物が壊れるし、後片付けが面倒だからって、嫌がってたあいつも、一度やると味を占めて、なかなか止めなかった••• 結局、おばさんに見つかり、二人して怒られるのが、お決まりのいつものコースだった•••)

「今頃あいつは、どうしてるかな?」

 フェリペは遠い記憶が蘇った事で、ホームシックまで蘇りそうだったが、それでも失われた記憶だけは蘇る事はなかった。

 滝は最初のものを皮切りに次から次へと現れては去り、その度に客室内部は激しく攪拌されていた。フェリペは段々とそれに付き合うのが疲れてくると、(しまい)には定静室へ移動するのだった。

 その部屋は前の物とは別世界だった。いくら乗り物自体が回転しようとも、決まった方向から動く事はなく、慣性力も遠心力も全く作用していなかった。座席に掛かる垂直な重力を絶対のものとして、只管(ひたすら)それに従い、叛旗を翻す素振りすら見せなかった。

(何て平穏な空間なんだ、ここは•••)

 そこには、衝突を楽しむ傍若無人な子供達の天国とは対照的に、安静を愛する泰然自若な大人達の極楽があった。

「これはこれで、悪くない•••」

 フェリペはそこで休憩する事にした。

 暫しの時を経て、急にルパカンタが浮上したと思うと、また光の輪郭が現れた。

「皆様、大変長らくお待たせ致しました。当ルパカンタはこれより大滝に入ります。就きましては、一度全てのお客様に客室のお座席の方へお戻り頂き、臨席なされた儘、その偉大なる流れをご堪能頂きたく存じ上げます。不躾な要望を平にお詫びすると共に、ご足労にご協力下さいます事を深く感謝申し上げます」

 客室に戻り、弾撥膜を解かれた後に自分の席に腰を落ち着けると、ピーンという音がして、椅子から出た幾つかの水色の光線がフェリペの体を覆った。

(成程。これが所謂、ここでのシートベルトな訳か•••)

 フェリペはそれ以降動けず、しっかりと座席に固定されていた。

 ルパカンタが水の中に潜ると、すかさず外の明かりが山の内部の終わりを告げ、ドド〜ッと轟く滝口は、もう目と鼻の先だった。

「皆様、心の準備はお済みでしょうか? それでは、当彩虹ツアーの醍醐味となるひと時を、どうぞお楽しみ下さいませ〜。ショートトリップ!」

 光の輪郭が消えるのと同時に、ルパカンタは傾き始めた。そして、完全に地面との平行性を失うと、垂直を保った儘、凄まじい勢いで一気に滝壺まで流れ落ちていくのだった。

「キャ〜〜〜!」

「ワ〜〜〜!」

「ウオ〜〜〜!」

「アァ〜〜〜!」

 客席内には、絶叫や歓声に恐怖と興奮が入り乱れる、猛烈な嵐が吹き荒れていた。そんな中フェリペは、グッと歯を食い縛り、ジッと時が去るのを待っていた。

 両手は強く握り締められ、大きく見開かれた両眼は、ぐんぐんと縮まっていく湖との距離を懸命に把握しようと努めていた。頭の中は半ばパニックの如く、燃える様に熱かったが、その一方で、心の中は凍える様に冷たかった。

(もういい! 早く終わってくれ〜!)

 フェリペは切にそう願った。

 ザァッパァ〜〜〜ン! 巨大卵が着水すると、その水飛沫は数十mにも及んだ。

 時間にしておよそ30秒もある、こんなにも強烈な落下劇を体感させる絶叫マシンは、地球上のどこを探しても存在し得なかった。

 一瞬、鮮やかなコバルトブルーの世界が眼下に広がったが、それも束の間、幾つもの光の筋を抜けて、白波が泡立つ水面に出ると、そこは、日の光を反射するキラキラと輝く世界だった。

「皆様、お疲れ様でした。ゲニ湖に到着です。どうぞこちらの円形広間まで、お越し下さいませ」

 水色の光線が消え、乗客全員が揃ってから、ルパカンタはゆっくりと浮上しながら方向転換をした。するとそこには、天辺が見えない程雄大な断崖絶壁が威風堂々と聳え立ち、霞の如く飛沫を巻き上げる大瀑布に拠って、幾重にも張り巡らされた虹が、高々と天へ続いていく神秘的な光景があった。

「素晴らしい!」

 フェリペは、その前代未聞な規模を(ほしいまま)にする圧倒的な風景に、驚嘆せずにはいられなかった。そして、客室は瞬時に、乗客達の大歓声と喜悦の雰囲気で満ち溢れていた。

「皆様、あれこそが有名な、落差660ギラ(2102m)を誇る、ロメーナの大滝です。ここに掛かる全ての虹は例え夜でも絶対に断絶する事はありません。代わり代わり現れる幾つもの星々から照らされ、夜虹は静かに朝を迎えるのです。空気は年中乾燥し、空に雲が生ずる事のないこの土地は、その極めて珍しい景観故に、天の川銀河連盟に拠って、『越界伝世』(時空を駕して、巷間に広めるべきもの)に登録される事となったのです」

 再び上昇したルパカンタが崖の中腹まで来ると、

「あれを見てっ!」

 と、いち早く何かに気付いた乗客が指差した先には、大滝と崖に開いた穴から流れ出る四つの滝が、大気の密度の違いに拠って生じた『気層』と呼ばれる分離、隔絶された空気に、綺麗な対称性を備えた虹の階段を織り成す、明光風靡な景色があった。

「凄いっ!」

 フェリペは偉人の言葉に狂いは無かった事を確信した。

「皆様、只今ご覧頂いております絶景が、当彩虹ツアーのクライマックスとなるものでございます。遥か昔から人々に愛されてきたこの場所は、『五滝の虹橋』と呼ばれ、『天国への道』という異名を持ちます。この名前には、その美しさに魅せられて一歩足を踏み出せば、もう二度と返って来れない。という揶揄も含まれておりますので、どうか変な気をお起こしになりません様、くれぐれもお気をつけ下さいませ」

 最後に、優秀なホログラフィックは締まらない冗談を言うのだった。

 ツアー解散後、フェリペが宿街に向かうと、その宿は地下にあった。

 受付を済ませ、粒化室に入るなり、フェリペはまた驚いた。ゲニ湖に面する部分の粒化窓が水中の情景を(ことごと)く映し出していたからだ。

「ワァオ! 何から何までびっくりさせてくれるな〜、この星は•••」

 そこはまるで天然の水族館だった。

 湖周辺に一切の建築物が無いのは、美観を損わせない為だとキースに書かれていたが、自然の地形を有りの儘活かせる卓越した科学技術力は、脱帽に値していた。

 窓に触ってみると、その質感は他の部分の壁と同じだった。

(成程ね〜、固体や液体は通さない。か•••)

 フェリペはティウの発言を沁々と実感するのだった。

 少しずつコロコンタに慣れてくると、段々この衛星に親近感が涌き始め、何だかフェリペは郷土料理が食べたい気分になっていった。

(よしっ! 今日は一つ、コロコンタ料理に挑戦してみよう!)

 思い立ったフェリペは宿を出て、近くにあったレストランに入った。

 フェリペがドゥティリカランの名物料理を頼み、粒子機でカリモーチョを製造していると、隣のテーブルで食事をしていた者が話し掛けてきた。

「おい、それを飲むのは止めとけ••• 見るからにおかしな色してやがる。失敗作だ」

「いや、これは私の星••• 私の国では人気のある飲み物で、元々こういう色なんだ」

「へぇ〜、そーなのか•••」

 フェリペが見ると、その男は真っ黒な飲み物を手にしていた。

「君が飲んでる物は何だ?」

「おっ、こいつを知らねーのか? こいつはメムつって、腐ると丁度そんな色になる」

「美味しいのか?」

「当たりめーよ。飲んだ事ねーなら、ちょっと飲んでみろ」

 フェリペがメムを口にすると、それはテキーラを彷彿させる、激烈な味がした。

「ゴホッ、ゲホッ•••」

 フェリペが咽せるのを見て、男は言った。

「おい、大丈夫か? お前」

「何とかな••• だいぶきついな。喉が焼け(ただ)れるかと思ったよ〜」

「何言ってやがる。変な奴だな、お前•••」

 そう言うと男は、まるで水でも飲むかの如く、メムをゴクゴクと飲むのだった。

 暫く二人は、互いの出身星の違いを楽しんでいた。が、フェリペがここに住居を求めて来た事を告げると、男はフェリペを痛烈に叱咤し始めた。

「ここに住むだと!? 馬鹿を言うな! ここは連盟の厳命で、全ての人種の居住が禁じられてる『夢』なんだ! お前は寝た時に見る夢の中に住む事が出来るか? だとしたらそれは永眠を意味しちまう。それと同様、起きてる時のそれは死を意味する事になる。うっかりここに蟠踞でもして、連中にしょっぴかれりゃ、ここに住むどころか、檻に住む事になるんだぞ。そうなりゃ本当の、夢のまた夢! お前は一生、世間の笑い草にされちまうんだぞ!」

 それは今のフェリペにとって、最も重要な情報と言っても過言ではなかった。

 迂闊なフェリペは、余りにも気持ちが昂揚し過ぎていた昼間、この地を訪れる事を決めた段階で早々に調査を終了し、それ以降は何も下調べしていなかったのだ。

「すまなかった。私はここが特区である事を知らなかったんだ」

「ああ。今ここで教えとけて良かったぜ。よく覚えときな」

「解ったよ。ありがとう」

 男はメムを一口飲むと、何かを思い出した様に言った。

「それはそうと、さっき、頭と目の上に毛が生えてる、身体的特徴がお前そっくりな奴を見掛けたぞ。あれはお前の知り合いか?」

「! 今、何て言ったんだ!?」

 それは本日にして一番の驚きだったが、フェリペの大声に男もまた驚いていた。

「すまない••• 一瞬とは言え、我を忘れる程仰天した。どこで見たのか、詳しく教えてくれないか?」

「川原だ。このゲニ湖を源流とするゲニク川中域の北側の川辺に居た。どうやってあそこまで行ったんだか、周りには乗り物らしき物は見当たらなかった」

「ラビを使ったのかな?」

「馬鹿言え。ラビは元来、人の集まる場所にしかねー。あんな所にはまずある筈がねー」

「本当に、私に似てたのか?」

「本当だ。多分、お前の星のお前と同じ種の動物から進化した生態だろーよ」

 進化論にまで言及されると、フェリペはその詳細な予想に頷けた。

「で、どんな物を着てた?」

「黒だ。黒い服か、大きな布みたいな物にすっぽり包まれてたな」

「背丈は?」

「お前よりも小さかった••• その訊き方じゃ、どうやら知人じゃねー様だな?」

「ああ。私はここに、私以外の地球人が居るか、知らないんだ」

 そう言った時のフェリペの眼は、男の目には寂し気に見えた。

「まっ、何にしても、探すのは明日にしな。夜は夜行性の野獣がうろついてて危ねーからな〜」

 その言葉を最後に男はレストランから去って行った。

 部屋に戻ったフェリペは、今しがた更新されたばかりの最重要情報をあれこれと考えていた。

(明日朝一番に乗り物をチャーターしないとな。それに、川の中流の範囲も調べとく必要がある•••)

 フェリペは昼の轍を踏みたくなかった。己の落ち度を情けなく思っていたのだ。そして、夜虹よりも同星出身者の存在を強く渇望すると、絶対に見つけ出す事を心に誓い、情報収集に徹するのだった。


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