第62話 一撃必殺
「ですが、マスター。一体どうやって、あのドラゴンを倒すおつもりですか?」
カエの中で固まった決意……
いざ竜討伐——! とまでいったのはいいのだが……では、どうやってそれを実現するのか?
『言うは易し』との言葉がある通り、決意を口にする事は誰にだってできる。現状、竜の脅威とは如何なものか分かっておらず——かつ眼下に望む竜は大暴れ。この状況でどうやってあの巨体と対峙するつもりなのか——?
すかさず、フィーシアからは必然となる疑問が投げかけられた。
「えっとね〜……一応、策は考えてあるんだ」
すると、カエは既に作戦案があるかの様な口ぶりを見せる。
「——ッ流石はマスター! 既に、作戦の立案があるとは……感服致します」
「——ッえ!? そんな褒められる事じゃぁ……ただ、“いつも通り”をやるだけだしね。だけど、その前に……」
カエは、そう言うと1つの金属片をポケットから取り出してフィーシアへと投げ渡した。
「これは……? “鱗”……ですか?」
フィーシアは放り渡される金属片を難なくキャッチすると、それを確認する。すると自ずとフィーシアはすぐその正体に気づく——
それは、カエ達がそもそもこの地に赴く発端を担った元凶……【竜の鱗】であった。
「フィーシア、その鱗なんだけど……ちょっとこっちに向けて投げてくれる?」
「これをマスターに……ですか?」
「うん! 別に思いっきりじゃなくて、軽くね——」
そして、カエはフィーシアに竜の鱗を投げる様に指示を出す。すると、カエは先ほどから握り締めていた斧を両手で持ち身構えた。
「では、行きますねマスター」
「いつでもどうぞ〜」
フィーシアは言われた通り、カエに目掛け鱗を投擲した。鱗は、勢いこそ無いが無難な速度で放物線を描きカエへと向かっていく。
「——ッおりゃ!」
こちらに向かってくる鱗を、カエは特に受け止める訳でもなく、構えた斧でもって縦斬りした。空中で鱗と刃がぶつかると、キン——と低い音を瞬間で残し、2つに割れ——カエの左右背後に破片は落下した。
「うん! “実験”は成功。鱗は斬れる、と……」
カエは、そのことに満足したのか、武器の構えを解くと、ホッ——としたかの表情を浮かべた。
「もしかして、マスターは“試された”のですか——?」
「そう言うこと! フィーは理解が早くて助かるよ!」
「……恐縮です」
すると、フィーシアもカエの行動に理解を得たのか主に質問を飛ばすとカエはこれを肯定した。
今、カエが“実験”と題して試した事なのだが、竜の鱗を実際にカエが両断出来るのかどうなのか——? 要は、試し切りであった。
結局、竜に挑むにあたって、脅威度がハッキリしない今——「いざ勝負!!」で、歯が立たない——では話にならない。
助けに入ったつもりが、全く役に立たなく、ましてや『死にました!!』では、ミイラ取りがミイラ状態と言うやつだ。
そこで、カエは手持ちにあった竜の鱗を、所持した武器で斬ったことで“ドラゴン”にダメージを与えられる可能性を確かめた。
そして、鱗は2つに“割れた”……いや、“斬れた”事により破片が2つカエの背後に転がってる。
これが示唆する事——
すなわち『斬れる』が証明されたのなら——少なくとも、カエが握る大戦斧では“ドラゴン”にダメージを与えられる見込みがあるということだ。
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------メインウェポン <main weapon>
>>> デストラクション
《over the limit》Lv.10
┗アタッチメント <attachment>
>>> 特殊会心(強化率+80%)
>>> 破壊神EX
------サブウェポン <sub weapon>
>>> “デストラクション”
《over the limit》Lv.10
┗アタッチメント <attachment>
>>> ーーーーー
>>> ーーーーー
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カエが持つ大戦斧なのだが、実はこの武器——カエの所持する装備の中で、ゲーム(アビスギア)随一攻撃力が高い得物となっている。
丈がカエの身長を優に超え、とても小柄のカエが持つにしては不釣り合いな両手持ちの白い大戦斧。
斧と言いつつも、その全貌は機械仕掛けの塊だ。斧刃の部分が大きなタービンとなっており、その周囲を複雑な機会パーツでコーティング。刃がまるで「序で」とばかりに、後から付け加えられたかのデザインである。そして、刃は矛先へと続いて確認できる為——機械の集合体との固定観念を無しに全体を窺うと、斧よりハルバートと言った方がしっくりとくるか——
全体を通してSF要素の塊であると共に、その風貌はこれまた『厨二』の具現化であった。
何処か歪な雰囲気を発し、タービン部分からは常に、シイィーーンとの風切り音を発している。
聞く者全てを威嚇するかの風切り音。鼓膜を通し自ずと畏怖が伝わる様だ。
そして、カエはその恐怖の象徴を横合いの地面に突き立てると、視線をフィーシアへと向けた。
「ッフィーシア——今から作戦を伝える」
「——はいマスター……拝聴します」
「まず、俺達にある利点は、あの“飛竜”にこちらの存在がまだバレていない事だ。そこで“ドラゴン討伐”に取る方法は——」
そして彼女はフィーシアに……今から、相対する飛竜——その討伐方法を話し出した。
して、その方法とは——
「バフを重ね掛けた一撃必殺で仕留める!」
「一撃で……ですか?」
一撃の元にドラゴンを葬り去る立案であった。
「まず使うのはアビスギア内随一の破壊力の戦斧【デストラクション】。この武器は威力が一番大きいから一撃必殺を目指すならこれしか考えられない」
「なるほど……ですが、それって“両手武器”ですよね? マスターの戦闘スタイルは、スピードで相手を翻弄する回避と——システム【ダイヤモンドダスト】による堅牢性を主流としたモノです。デストラクションでは、いささか“重すぎ”ます」
カエは続けて作戦の要になる武器に意識を向け、威力随一という武器の利点を語り出す。が、フィーシアはこれに対し透かさず武器のデメリットをあげた。
武器 戦斧【デストラクション】なのだが……その物騒な名前の通り、破壊力が売りな武器だ。ただ……攻撃力だけ見れば確かに強いが——武器威力のメリットが霞んでしまうほど、この武器には多くのデメリットが存在する。
まず最初に、フィーシアの言う"両手武器”との単語だが……戦斧デストラクションはメインウェポンとしてしか装備することが叶わない。そして、メインウェポンに装備されると同時に、サブウェポンが自動的に外される。これが“両手武器”の特徴。
両手武器は基本、他の武器と併用して装備する事ができないのだ。その為、装備項目のメインとサブのウェポン欄に【デストラクション】と同じ名前が記載される。それと、武器名に連なった“アタッチメント”だが……これは武器に装着できるモジュールアイテムで、武器に特殊効果を付けられるモノだ。この時、サブウェポンの欄が斜線が引かれているが、これは武器のモジュール効果が上記と同じ事を指す為、非表示になっていた。
そして、この“両手武器”なのだが、威力が強力な分——装備重量がとても重い。
カエの戦闘スタイルは以前にも説明はしたが、一番重きを置いているのは『速度』である。よって、カエは自身のスタイルを維持するあまり「重い装備」は必然的に装備ができなかった。
デストラクションはアビスギア内で最も『威力』が高い武器だが、そこと比例して『重量』もアビスギア随一でカエは今までこの武器を装備した試しがない。
では何故そんな武器をカエが所持しているのか——? それは、前世のゲーム内で……カエは、装備の類は基本全部取り揃える収集家気質な性格をしていた為であった。特に使うことはないが、装備項目一覧を見て悦に浸る“変態”がカエと言う人物。完全な自己満の世界の住人だった。
それで……本末として何が言いたいかというと……カエが、この武器を持ち出すのは普段は、あり得ない珍事なのだ。
だが——
「そこは大丈夫! 最初にも言った通り、一撃で仕留めるつもりだから、この斧を振るのは、タイミングを合わせた一回だけだからね。問題ない筈だ」
今、必要としているのは、武器の威力だ。装備重量過多であろうと一応は装備はできる。移動制限と、武器を振るうモーションにマイナス補正が付いてしまうが、そこはカエにはある考えがあってのこと。まぁ、それは追々……補足を入れるとして——
「それでフィーにも勿論、作戦を成功させる為に重要な役割があるからね」
「——ッ!! 是非、お任せを——完璧なサポートをお約束します」
そして、カエは作戦内容の説明を続けた。今も、ドラゴンはアインを潰してしまう為に暴れているのだ。手遅れになってしまう前にも、手短にフィーシアにカエの想像する作戦を淡々と伝えていく。
この時のフィーシアは、カエの役に立てる喜びを感じているのか。彼女の瞳は、これまでに窺わせたことのない程の輝きに満ちていた。
暫くして——
「じゃあー行くよフィーシア」
「いつでも行けます。マスター……どうかご無事で——」
「ん? ああ……勿論。何かあったらそん時は全力で逃げるから心配いらないよ」
作戦の概要をフィーシアに話を終えると、カエは今一度ドラゴンを視界に捉える。すると、ドラゴンはまだ暴れていた。どうやらアインはまだ奮闘しているみたいだ。
「最上部では、油断しちゃったからね。今度は全力で行かせてもらうよ」
カエはそう呟くと、1つのゴーグルをインベントリ内から取り出し、顔に装着する。最上部では、竜の羽ばたきで舞う砂で視界を奪われてしまった。
だが……今度はそうはいかない。カエは己の全力をもって、ドラゴンに立ち向かう。
——もう油断はしない……
「スゥーーはぁぁーー……」
カエは深い深呼吸を入れると、眼下のドラゴンに鋭い眼光を向けた。そこには、一切の油断は感じられない。真剣そのものである。
そして……
カエは意を決すると大きく跳躍する——
ドラゴンを目掛けて“崖”を飛び降りた——
ただ……この時のカエは、まだ無手の状態で先程の白い大戦斧は握られていない。その代わりに……手にしていたのは4本の試験管。中にはそれぞれ色合いが若干違う赤い液体が入っていた。
カエは、その赤い怪しげな液体を迷うことなく一気に飲み干してみせる。
【筋力増強特殊安定剤(小)】…攻撃力(小)の効果を獲得。継続時間180秒。
【筋力増強特殊安定剤(中)】…攻撃力(中)の効果を獲得。継続時間120秒。
【筋力増強特殊安定剤(大)】…攻撃力(大)の効果を獲得。継続時間 90秒。
【瞬間攻撃強化薬剤(抜刀)】…抜刀後 最初の攻撃は+100%の攻撃力強化効果を獲得。会心率+10%(ただし、攻撃が当たった時点 又は 再び武器を納刀すると効果は失う)
これらは、ゲーム内の一時的に攻撃力を上げるプレイヤーにとってはポピュラーなアイテムだ。
カエはドラゴン討伐の確信を深めるべく、用意した作戦は「バフ効果の重ね掛け」である。あくまで『一撃』で仕留める。その為に、カエは妥協はしないのだ。
戦斧【デストラクション】がドラゴンにダメージを与える可能性は確認したが、それでもカエにはまだ不安があった。と、言うのも実験に使用した竜の鱗は抜け落ちた鱗だ。劣化した鱗が斬れたからと言って、生え揃った新鮮な鱗が斬れるかは不明——そこで、その不安を取り除く為、用意したのが薬品の数々だったわけだ。
ただ……
(うげェェ……まぁッずッッ?!)
口に薬品を含んだ瞬間、カエの口腔内に衝撃が走った。とんでもなく不味かったのだ。まるで、エナジードリンクに酸味と苦味を余計に足してしまったかの様な……我慢して飲み干せば、鼻にツンッ——とした刺激が走った。完全に劇薬だとしか思えない味がカエを襲う。彼女は既に、ドラゴンに対し崖を飛び降りてしまっている。吐き出す事も、もたついている時間もなかった。耐えて、素早く飲み干した。
(うう……俺は選択を間違えたのか……?)
この時点で、カエの感情には後悔と……ゲーム時代にこの劇薬を多用してた事による——自前のキャラ達への申し訳なさが彼女の頭を占めた。
だが、賽は投げられてしまった。引き返しはもう効かない。
カエの中で後悔を巡らせつつも、それが分かっているからこそ次なる手を講じる。彼女の手には、更に……黄色と紫色の試験管が気づくと握られていた。
バフの重ね掛けはコレだけでは終わらない——




