表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/164

第60話 天より舞い降りし少女

「……気流の刃(エアリアルブレード)——」



 アインは、放ち切った風の魔力を再び自身の握り締めた短刀へと込める。そして、意を決し『飛竜種イグニス』を見据える。イグニスは、離れたここまで聞こえる程の畝りをあげ、コチラの出方を伺う様に睨みを利かせていた。そこにあるは王者の貫禄——アイン如き小さな矮小な存在、わざわざ追撃しなくとも……自身の腕や尾の一薙で簡単に屠れるからこその頂上たる余裕。

 彼もまた……アインに逃げ場が無い事など知性ある魔物として分かっているのだ。


 そして……



 「風よ……力を貸してくれ……ッ風よ吹け(エアリアル)!」



 アインは足に風の奔流を纏わせ、風圧を爆発させた。『風』の魔力を借りた彼の駆けるスピードは最早、常人のものでは無い。

 

 

——ッ!!——グアァーーーーーゥゥウウ!!!!



 その姿を目撃するイグニス……彼の者の決意を感じ取ったか、果敢にも竜に挑もうとする小さき存在に敬意を払うかの如き咆哮を上げ、そんなアインの接敵を待ち受ける。



 ただ、アインがイグニスに接近する最中……彼は竜の足元に一筋の光の奔流を目にした。



「——ッッ!? ッリアーーーーーダメだ!! 撃つなぁああ!!」



「——ッッ?! ……っえ??」



 その光の正体は、レリアーレであった。彼女は自身の笏杖を握りしめ『光』の魔力を収束、練り上げ圧縮していた。こうして魔力圧縮を起こす事で、魔法は威力を高めることができる。魔法使いの一技法だ(因みにアインは出来ない)。

 その練り上げた魔力を……アインの特攻を見たレリアーレが今まさに魔法をイグニス目掛け放とうとしていた。


 だが……


 アインは、その事に気付くと——声を張り上げ、何故かレリアーレに魔法の静止を訴えた。



——グアァーーゥウウ!!


「——ックゥッッ—— 風よ吹け(エアリアル)



 そしてそんなアインは既にイグニスの足元へと迫っていた。イグニスは、アインを再び踏み潰す為か両前足でもって、時間差でアインに対し腕を振りかざし、掌を地面へ叩きつけた。

 が……アインは器用に風圧の圧縮を放つ事でジグザク走行——立体駆動を可能とする事でこれに回避を成功させる。

 

 

「——ッエアリアルブレード!!」



 そしてそのままの勢いでイグニスの腹の下へと潜り込むと、イグニスの後ろ足を目掛け——勢いの乗った速度のまま片足に切りかかる。


 だが……



「——ッ……!! ッダメか……」



 結果に顔を顰めたアイン……


 その一撃は、竜の肉に届かず——イタズラに竜鱗の表面を傷つけただけであった。

 そう……アインの攻撃では『飛竜種イグニス』にダメージを負わすことは叶わなかった。風魔法の風圧による加速とエンチャントによる強化を含めた攻撃をもってしてもだ。

 そもそも、アインの戦闘スタイルは速度で相手を翻弄し、すかさず鋭い一撃を叩き込むといったモノだ。対人や、魔物の弱点を狙う場面では、大いに能力を発揮する一方で……硬い相手や、重厚な相手を特に苦手とする。

 今のアインの渾身の一撃も加速を利用した鋭い斬撃ではあったが——硬い竜の鱗を貫くには至らない。何度も、同じ箇所に先ほどの攻撃を与え続ければ話は変わって来るだろうが、例え肉を断ち切ったとしても——強大な体躯を持った飛竜相手に短刀による傷など……引っ掻き傷がいいところ。


 大体、硬い相手や巨大な魔物を相手取る時は、アインは決まってヘイトを稼ぐ事に注力し、攻撃役に徹するのはレリアーレの仕事であった。



 しかし……であるなら、何故アインはレリアーレの魔法の発動を止めたのか——?


 ただ……そこには勿論、彼にとって譲れない理由があり——鼻からアインは、『飛竜種イグニス』に勝つ気など……



 全く持ち合わせていなかったのだ——





 『飛竜種イグニス』は、その瞬間——自分の足に伝う感覚から、攻撃を受けた事実を知る。すると、足元にいるであろう敵 (アイン)を炙り出そうと、地団駄を踏み身体を旋回させた。

 


 「——ッッッ!!」


 

 アインはその「天災級」の足踏みを、研ぎ澄まされた感覚を——最大限張り巡らし、回避に意識を集中させる。


 

 その最中——



「——ッリアーーー!!」



 魔法の静止を訴えた時の様に——再び、声を張り上げた。大切な仲間の名前を……



「——ッ君の魔法は威力が高すぎる!! ヘイトが君に移る恐れがあるんだ! ここは俺が抑える。だから、君だけでも逃げるんだぁあーーッリア!!」



「——ッあ……アイン? 何を言って……」



 その叫びは、先程の静止の答えとも取れる……アインが望んだ悲痛な叫び——


 アインが、彼女の魔法を静止したのは、彼女を守る為であった。アインはイグニスに対して、ダメージが入らなくとも攻撃を仕掛けたのは自分自身にヘイトを稼ぎ続ける事である。

 だが、レリアーレの『光』魔法は、致命にならなくとも、アインの斬撃に比べれば間違いなくイグニスにダメージが入る。

 が……その瞬間イグニスの優先順位は、確実にアインよりレリアーレが上をいってしまう。

 レリアーレも一応は、攻撃の回避や防ぐ障壁とある程度のタフネスは持ち合わせているが、肝心の相手は『天災』と目される竜である。

 イグニスの一撃を喰らえば、その時点で【ゲームオーバー】——竜との死闘とは、そんなギリギリの戦闘を強要される。

 アインは自身の速度と瞬発力を大いに発揮し、今も暴れるイグニスの足元で奇跡に近い回避力を発揮してるが——この役はレリアーレには無理がある。彼女の場合、回避に加え魔法の障壁を織り交ぜるのが防御に徹したレリアーレのスタイルだが……障壁が竜の一撃を防ぐ耐久力があるかが分からない。また、防げたとして次撃をも防ぐリカバリーができるのか——?



 だから……アインはそんな未知数な彼女の戦闘を防ぐために——魔法発動を止めさせたのだ。



 相手は天災——本来、討伐をするなら国単位で事に当たるべき存在だ。


 レリアーレの魔法があってしても、おそらくイグニスを倒すことは不可能に近い。奇跡を起こさない限り『ありえない』とさえ言ってしまえるほどの力の差が、そこに存在するからだ。

 なら、せめて……どちらか一方が時間を稼ぎ、もう一人がここから逃げる。命の取捨選択——

 アインは素早さが売りで翻弄するに長けた人物——殿(しんがり)を務めるには適任であろう。

 アインが竜の意識を惹き……レリアーレを逃す。この状況を考え、尚且つ……アインの覚悟を汲み取るなら、何ら間違った事のない最適解な選択であろう。



 だとしても……



「——ッ嫌……ムリよ——そんなの……私は……」



 レリアーレは、ソレを受け入れられない……受け入れたくない——



 アインの決意——


 彼が何のために戦っているのか——



(分かっている)



 現状況における適正判断——


 命の取捨選択——



(分かっている!)



 私の最適解的行動——逃避——逃げる——彼を置いて——



(分かっている——!!)



 だとしてもッ——!!



「私は……あなたを——置いて行けないッッッ——!!」



 彼女は分かってはいるのだ。こうして立ち止まって狼狽えている場合でない事など——


 アインは、今もレリアーレを逃がす為に戦っている。だが、彼女は動けなかった。

 大切な人が、その命をもって自身を逃がそうとしているのに……この1分1秒を無駄にできないのに……心がこの場を離れる事を拒む。



 そして、そんな彼女が見つめる先で——





 アインは竜が踏む歪なステップを避け続けていた。しかし、その一歩一歩を避け続けるのはかなりの集中力が要求され、1つの判断ミスが死に繋がるスレスレの回避ゲームを繰り広げる。このままの状況の継続はいつ何時不意な事故へ繋がるか分からない。

 アインは、大切な仲間の逃げる時間を稼ぐ為、まだやられる訳にはいかなかった。よって、安全圏に退避する目的で距離を取り、やがて竜の翳りから抜け出す。

 


 だが……この選択が悪手であった。



 アインがイグニスの体躯下から躍り出た——その一瞬を狙われた。



「——ッッッアイン!!!!」



「———ッ!? しまッた………」



 思わずレリアーレは彼の名前を叫ぶ——


 アインはイグニスの状況を確認しようと、竜の全貌に視線を向ける。すると、イグニスはアインを捉え——口腔を顕にしていた。それは、決してアインに『喰らいつく』といった攻撃を与えようとしている訳ではない。



『ドラゴンブレス』



 ソレは、竜が誇る最大最強の攻撃——その可能性が頭に蜂起した瞬間……アイン、レリアーレに最大限の警鐘が鳴り響いた。



 それと同時——アインには1つの言葉が叩き付けられる。





——詰んだ——





 付近に、攻撃を凌ぐ遮蔽物はなし——


 イグニスとの距離を考えるとブレス範囲外に逃げる事は不可能——


 防ぐにしても……個体にもよるが大体の竜のブレスは『炎』の属性——


 アインの『風』は相性が悪い。レノが放った魔弾を防ぐのとは訳が違く、竜の『炎』は桁が違う——


 仮に、この場にレリアーレが居たとしても、彼女の障壁でも防ぎ切るのは難しいことだろう——



 と……ほんの刹那で思いつく限りの対策が脳内を駆け巡りはした。



 だが……



(ここまで……か……)



 打開案——ゼロ——



 この状況から『ドラゴンブレス』を耐え切る方法はアインに残されていなかった。

 「諦める」は、彼らしくない言葉ではあるが……もう既にイグニスは予備動作に入ってしまっている。竜の口腔内では、喉の奥から眩い光を放ち、ブレスが解き放たれるまで秒読みの段階——


 ただ、この時のアインはここまでに稼ぐ事の出来た時間で、大切な人が無事——安全圏内に退避してくれていることを、ただただ願っていた。


 しかし……レリアーレは、どうしてもアインを残しておめおめと自分だけが逃げる選択を選べず、まだ付近に居てしまっている。

 

 彼の危機に上がるレリアーレの叫びは届かず——何もかもが報われない——



 アインは、そんな中で——『ドラゴンブレス』による破壊の輝きを視線を外す事なく見つめ続けていた。



 これから自分を殺すであろう。死の光を——





 しかし……




 

 その時、アインの捉えていた光景には……




 『可笑しなもの』が映り込んだ。

 





 

 それは唐突——天から落ちてきた。





 やがて竜の顔の横を掠め、そして……



 ットスン——と地面に突き刺さった……一本の杭——



 それには、イグニスも自身の直ぐ横を掠めた事でブレスを放つ姿勢は変えずとも、瞳孔だけがその姿を追っていた。

 


 アインも思わずそれを目で追っていたが……ただ……



 彼には、その正体が分からなかった。


 『杭』だと説明したが——それは地面に突き刺さって見せた様からくるモノ言いである。


 形状は筒状……直径が拳ほどで、表面は竜のブレスの輝きによって鋭い光沢を放つ様子から、感覚的に材質は金属だと判断した。

 何枚もの細かな金属片が張り巡らされ組み合わさって形成された『ソレ』——アインにはその一つ一つのパーツの目的や、厳密な物質に全く想像がつかず……一言で表すなら『奇怪』な物体だとしか言い表せない。

 それに……杭の表面を、灯火とも違う奇妙な光の線が走っていた。これを、“奇怪”と言わずして何と表現できようか。


 すると——



——ピピピ……ッガシャン——



 地面に突き刺さり僅かコンマ数秒……“奇怪な杭”は不思議な音を発した。すると一部金属片が張り出し、それが筒の周囲を回転し始めると……次の瞬間、バリィッ——と杭は轟音と共に稲妻を周囲に解き放った。

 迸る雷光は竜のブレスにも劣らずの輝きを放ち、周辺に轟く雷音は各々の鼓膜を悪戯に刺激する。思わず耳を塞いでしまいたい欲求が必然と発生した。それ程までに『杭』が放った雷電の惨憺たる威力を物語った。

 

 そして、その最も影響を受けたのが——



——ッグアァゥウ!?



 杭から1番近くに居る存在……“イグニス”であった。

 特に、顔の近くを掠め地面に杭が突き刺さった事で、直接雷が触れるのは……ブレスを放つ為に口腔を露わにした状態で膠着していた顔面。アインには、竜の表情を汲み取ることは出来ないが、人である彼ですら分かるほどにイグニスの表情には“歪み”を露わにした。



(な……何が、起こった?! 一体……何かは分からない。でも……もしかして……) 



 アインが与えた斬撃では片鱗すら匂わせる事のなかったイグニスの“歪み”——

 現状何が起こっているのか、彼には全く理解が及ばないが……イグニスを引き攣らせるにまで至った“雷”は、イグニスの攻撃を止めるまでに到達するのでは……とアインは一筋の希望を見出す。


 だが……


 イグニスは止まる素振りを見せない。それは意地なのかは分からないが、イグニスは杭が発する迸りに耐えて、尚もブレスは輝きを増す。どうやら、件の雷は巨体を誇るイグニスを止めるまでには至らない——焼石に水——


 イグニスの表情を歪めたのは流石ではあったが……結局は数秒の膠着を生んだに過ぎず。イグニスに表立ったダメージは行き届いていない。



 『ドラゴンブレス』が放たれる事実は変わらない。




 

 が……



 数秒の膠着——? 


 たったそれだけ——?



 いや……それだけで、十分——だって、唐突に舞い落ちた『奇妙な杭』の目的は、そこにあったのだから——





「——ッッッ断刀——!!」





 杭が雷を解き放って数秒——その杭に追ってか、叫びを上げた1人の少女が舞い降りた。

 


 アインは以前も、それに似た光景を目撃したことがある。その当時は『妖精が舞う』『星々が輝く夜空』を連想とさせた幻想少女の姿が、アインの脳内メモリに大いに焼きついたが——



 だが今は……?



 その少女が手にしていたのは、男のアインですら抱えるに不安を覚えるほどの大きな戦斧——? 形状は斧だが、アインには雷を放った杭同様に『奇怪』との言葉が脳裏を過った。白く……何処か禍々しさを感じる戦斧は、シィィィン——と、空気を震撼させる金切り音を響かせていた。


 あれは、本当に『武器』なのか——と思える程の、奇妙の具現化がそこにあった。


 肝心の少女は、以前の黒い外套を纏っていないが——これまた黒を基調とした不思議な衣服に身を包んでいる。



 『美しい』と感じた彼女は、今の姿からは想像出来ない。



 寧ろ……今の彼女は、どうしても『恐ろしい』としか思えてならないのだ——



 天より舞い降りた少女は——天使か……悪魔か……





 果たして——
















 アイン、イグニスの戦闘の激化と同時刻。




——【飛竜の棲家】 下層〜中層 間にて——




「クソ……結局、“最終手段”まで使う羽目になった」



 フルプレートの男【レノ】は悪態を吐いていた。



「そもそも! お前らが【神官】にやられたのが原因だ!」



 続けて彼は、悪態を吐くに至った元凶……その発端へと語気を強めて原因追求を吐き捨てる。



「何よ——!!  私たちが“原因”だって言うの!?」

「…………」



 レノが先頭を歩く中で、背後から2人の女性が少し距離を空けて歩いている。その内の1人、槍を背中に担いだ女が、レノの向ける言葉の矛先が自分達であると気づくと、叫びを上げる。ただ、隣を歩くエルフの少女は元気が無く、言い返す気はなさそうだ。最早、レノの大声すらも彼女の耳に届いているのかどうか……



「実際そうだろう? 何で、2体1で負けるか——? それも、魔法職の【神官】にだぞ?」


「それは——近接で私の槍が弾かれると思わなくって……でも! 元は、レノが『アイツらはお飾りのA級だ!』何て言うからでしょう!? だから……」


「“油断”した——てか? 冒険者が油断して——何て言い訳、通用すると思っているのか——? 油断が行き着く先は『死』だぞ? 随分甘い考えをお持ちだな?」


「ぐぬぬぬ……! だったら……アンタも、【シーフ】に勝てなかったじゃない! 相手はお荷物 (シュレイン)を抱えて戦ってたのよね? 何でそれで早急に決着が付かないのよ!!」


「…………」



 2人は歩きながらの言い争い責任転嫁を続けた。


 

 レノは『飛竜種イグニス』が中層に降り立った瞬間——【神官】のレリアーレが指を刺して示したエリアに足を運び、2人の気絶した仲間を回収していた。そして、アインの近くに火炎の弾丸(フレイムバレット)を放ちイグニスのヘイトをアインに移したのち、こうしてダンジョンの下層へ向け逃避に走っていた。



「……もう!! 喧嘩——やめて!!」



 そして、そんな折に尚も喧騒を挙げる2人の間から、3人目の叫びが上がった。弓使いの女、エルフの少女である。先程まで気を失っていたこともあり、彼女はまだ気力が回復しきっていない。だから、今の今まで黙ってレノに付いて歩いてきたが、2人の喧騒に我慢の限界がきたのだろう。



「負けたことは、もういい——! それよりも、これからどうするのよ——ッレノ?」



 彼女には、負けた事などどうでもよかった。それよりも今後、これからどうするかをレノへと問うた。



「これから……か。とりあえず、下層で待機だ」


「はぁ〜!? 待機? 何でよ!? 竜をアイツらに押し付けたんでしょ!! なら、ここに居なくてもいいじゃない」



 レノの言う“最終手段”とは、『飛竜種イグニス』のヘイトをアイン達に移す事であった。そして現在、その目的が完遂された今、この地にレノ一行が居る意味が無いようにも思える。それについて、すかさず槍使いの女から疑問の声が上がった。



「もしもの為だ。1人が殿に徹してもう1人が逃げてきたらどうする? 街まで逃げられたら面倒だ。下層で待機して、仮に逃げてきたらそこを叩く。俺たちは、アイツらの死を確認していないんだ。憂いは最低限は断たないでどうする。考えが足りないんだなお前——」


「——ッ! むかつく! アンタは……」


「アンタはうるさい黙ってて!! レノも一々怒りを掻き立てないで——話が進まない!!」


「「…………」」



 下層での待機は、アイン、レリアーレの内どちらかが逃げ出して来たことを危惧しての考えだ。レノは説明の最後に槍使いへと悪態を添えた物言いをしたが、それに反応をした彼女含め、エルフの少女は叱責を2人に返した。



「それについては分かった。あとシュレインは——? 彼は置いてきてよかったの?」


「アイツは——イグニスが地に降りた段階で、竜の足元にいた。イグニスが暴れた姿を最後に確認してるから、おそらく無事では無いさ。回収は無理だった。それに、あんな荷物持ち幾らでも補充は効く——今更、役立たずが死んだところでどうも思わんさ——」


「……そう。分かったわ……」



 そして、続けて“シュレイン”の所在について、レノに問う。だが……彼が居た場所はアインの足元。それは竜が降り立った直ぐ隣に位置した。レノは彼の回収は困難、と言うより鼻からするつもりがなかったようだ。よって彼の存在は、淡白にかつ簡単に掃いて捨てる物言いで終えた。イグニスの戦闘が激化してから、竜は無数にわたって地団駄を踏んでいた。無事でないとの見方は至極尤もである。


 そして、エルフの少女は、それを聞くと……もう聞くことは無いとばかりに口を噤む。


 そして、3人は黙ったまま下層を目指して歩く。聞こえてくるのは谷間の風切り音に混じった竜との激闘による、ズゥン——と言う遠くに鳴り響く鈍い音だけになった。



 だが、その時——





「——時に、そこのお三方? ちょ〜っと、待つっスよ〜〜」



「「「——ッ!?」」」



 3人に対して、4つ目の声が上がった——



「……お、お前は——」

 









 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ