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第101話 秘密兵器

「じゃあ、フィー! 『プランS』いってみよう! 誘導お願いね」

『了解しましたマスター』



 カエは一言フィーシアに残すと、ミスト目掛けて高速で駆け出す。



「——ッキュア!!??」



 この時のカエの見せた速度は全力のモノだ。今までの戦闘では一切の本気を見せず、体力は温存していた。それをここにきて開放して見せる。

 コレにミストは驚いて前足が跳ねてのけぞった。ここでカエが全力を見せたのは、ミストの意表を突くため。

 実は『最終兵器』を発動させるには、場所が限られてしまう。その理由があってミストを誘導する必要があるのだ。


 そこで……



「——ッッッ!!??」



 カエはミストに接近を果たすと、刀を抜いて前片足を切り落とした。ミストは高速移動と斬られた事実に衝撃を受ける。意識は当然脅威的な存在カエに全てを注がれた。


 その時——



——ッニヤリ!


「——ッ!?」



 カエは北叟笑ほくそえむ。明らかに馬鹿にしてるように口角を吊り上げて見せた。



「——キャラァァアア!!??」



 これにミストは憤怒する。直前に見せたカエの瞬間移動を脅威に思うところだが、幻獣はこれを無視した。それほどまでに思考が怒りに支配されてしまったのだ——この時のカエの笑顔に……


 これが、少女の狙いだというのにだ。



「ハン——幻獣って大層な名前を抱えているのに単純! ほら——ついて来い! おまえを舞台場に案内してあげるよ!」


「——キュラァァアア!!??」



 そして、カエは街を背に駆け出す。それを、ミストは雄叫びをあげ纏う紫電の衝撃のボルテージをあげてカエを追いかける。

 アインの説明では、語られていなかったが幻獣とはプライドの高い生物だった。例えば、自身より矮小な生き物『人間』——脅威の度合いで言えば、全く歯牙にもかからない存在。それなのに、幾重にも連撃を受け……そして小馬鹿にするように嘲笑されでもしたら……それは、魔物として……幻獣として——許しておけない部分があったのだろう。

 本来なら、ここまで翻弄され、目でも追えない速度で疾走。ましてや雷を斬ってしまうような存在 (カエ)は異常だと認知するのは容易だ。だが……彼 (ミスト)自身、何故ここまで足を運んでいるかわからない状態で、突如、イキリ散らした人間が力任せに暴れている姿を捉えた瞬間には——本能的に、この生き物をミストは放っておけなかった。時に本能とは厄介な働きをする。ミストは警戒するべきだったのだ。目の前の存在が、どれだけの脅威の存在で、『ナニ』を準備している存在であるのかを……


 この後……


 己がどんな結果に陥るのかを……









『マスター……そのまま直進。あと200m先に()()がありますので、見逃さないよう地面に注意してください。私の方は最終チェック……誤差修正演算を実行中。あと30秒で演算終了——後は手動で調整いたします。発射のタイミングはマスターに委ねますので……合図をお待ちします。いつでもどうぞ』

「了解——フィー、君に合わせる。こっちも指定位置についたら様子を見て合図する。だから、その後は……君に任せたよ」

『……ッはい……マスター!』



 カエはミストに追われつつ草原を駆けた。その間フィーシアとは秘密作戦の最終確認を織り交ぜ、通信でタイミングを計る。2人が用意した『秘密兵器』もしくは『リーサルウエポン』はたまた『プランS』というシロモノは、タイミングが全てだ。それは高威力なことは間違いないが、極めて命中精度に不評がある。だから、ここはカエの計るタイミング——そして、フィーシアの技量、腕前に全てがかかっていた。


 そして……



「……ッ!? あったここだ」



 カエはミストとの追いかけっこに興じる中——突如、地面にできた丸い黒いシミを見つける。それは直径20cmほどだろうか? 黄金の草原で、その部分だけが丸焦げ黒くなっている。



「——ッキュアァア!!」

「——ッ!? おっと、危な〜い」



 その20cmほどの焦げ跡とは、フィーシアの言う『目印』である。

 ミストはカエに追いつき、怒りのままに踏みつける。紫電を纏い、バチッ——と言う雷音を打ち鳴らし、カエを力任せに叩き潰そうとする。


 が——



「——ッ!!」



 ミストの足はカエに触れることは叶わなかった。



「……いい加減、学習しなよ——ゲームに登場するエネミーAIの方が、まだマシな動きをするよ。現実ってのはヌルげーなのかな?」



 ミストが踏みつけたのは黒焦げた『目印』だった。この時のミストの紫電によって、周囲の草原は焼け、目印があったことは既にわからなくなってしまったが……この状況はカエの作り出した求める結果に他ならなかった。



「フィーシア! いまだ——ッヤレ!!」

『——了! 発射——着弾までおよそ20秒です』



 カエはミストの踏みつけをヒラリと躱わし、大きくミストを飛び越え宙返る。天と地が逆転しカエの視界上空にミストと地面を捉えながら、カエは声を張り上げフィーシアに合図を送る。



『——弾丸、第1ゲート……通過——誤差20、修正します——』



 すると——発射との返答の後、フィーシアの報告は続く。



「——ッ?!」


「……ッお?」



 その最中——ミストに動きが、何かに気づいたように天を一瞬仰ぎ、続けて姿勢を低くした。その姿は、足に力でも込めてるようで、今すぐ跳んでこの場から逃げ出そうと躍起になってるような動きだ。



「やっぱり——獣だからか……敏感なのかね? もう気づいた? だけど、逃すわけないよね?」



 カエはミストのこの姿勢にいち早く気づく。



「せっかく君の為に用意した舞台だ。最後に華々しくスポットライトの光に焼かれずに帰るのは、違うんじゃないかい?」



 すると、宙返りの最中——まだ地面に足を付くよりも前にカエは再び刀を手に……



「……戦技……氷ノ華籠(こおりのはなかご)——拘束!!」


「——ッキュゥア!?」



 勢いを込め、刃を振るった。





氷ノ華籠(こおりのはなかご)

…《帝国版-拾弐型戦刀 蒼氷月華》の技の1つ。氷華結乱舞ゲージを消費して、目の前に複数の氷の蔓を出現させ敵を拘束する。ただし、技使用後、再使用に180秒。また、同じモンスターにこの技を使用した場合、拘束効果は薄まる。ゲージ消費量特大。





『……続けて、第2ゲート……通過——誤差……3まで減少。第3ゲート……通過……誤差1……着弾します。マスターその場から退避を——!』

「——ッああ、分かってる! 全力で逃げますともさ!!」



 カエは宙返りから見事な受け身を取って、そのままの勢いを殺すことなく、駆け出した。この時——自身の手にした刀は納刀。

 氷の蔦が絡まり拘束状態となったミストには目もくれず、腕を大きく振って全速力で離脱した。



「ハァ、ハァ……はは……再生するって言っても、拘束はできるんだよね。もし霧になってすり抜け出したらどうしようかと思ったよ——けど、コレで……」



 再生する姿の印象から……氷の拘束が意味を成さないことが懸念だったが、ミストは名前のように蒸気となって消えてしまうことなく、カエの放った拘束技を受けて身動きが取れなくなった。

 カエが用意した秘密兵器とは、攻撃が猛威を振るってくれるのに若干のタイムロスがあった。したがって、ミストを目的地点で牽制、もしくは拘束が必要だったが、カエはこれを見事に成し遂げこの場を離脱した。

 氷ノ華籠(こおりのはなかご)の拘束力は大して長続きしないのだが、既に手遅れ——ミストが例え今すぐ拘束を解いて逃げ出したとしても、もう遅い。



 射線からは逃れられない。



「……ッ! 来た——ふふふ……食うがいい——」



 そして、全速力で逃げ出すカエは、走りながらも視線を斜め後ろの天へと向けて……



 あるモノを瞳に捉えて……



 


 ただ笑う。





「数多のゲーマー達が……」






 そこにあったのは、光輝く一つの線だ。






「試行錯誤と挑戦を経て……」






 雲を切り裂き、青空を2つに分け、天より舞い落ちる。







「直向きに追い求めたロマン……」







 金青こんじょうの一閃。

















「刮目せよ——()()()()()()()()()!!」







 カエが、数秒前に居た地点は……





 ミストを含め、青い輝きに包まれて消えた。


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