調べて、行動する
「さぁて、これで静かになったね」
「あ、あなたは一体何なんですか? いや、何者なんですか?」
「へぇ、こんな状況なのにまだ質問する気概があるんだ」
蟲の目に不釣り合いな肉の眼球が自分を見据える。
その目に見られているだけで金縛りにあったかの様に動けなくなり、口の中から水分がなくなったかと錯覚するぐらい口元が動かなくなる。
「いいね、君は期待できそうだ。 死ぬ前に色々教えてあげようかと思ったけど君ならどうにか生き残れるかもしれないね。 だから教えるのは無しだ。 自分で調べて、自分で行動して、生き残ってみれば?」
蟲頭の男はそう言うと消えていた。
瞬きはしていないはずだ。
初めからそこにいなかったかの様に、突如としてその場から消えてしまった。
余りに突如として消えてしまったせいで、最初からいなかったのではないかと思いたくなるが、この場にある二つの死体がそうではないと語りかけてくる様だった。
「……調べて、行動する」
蟲頭の男に言われた言葉を無意識に反芻していた。
今は動かなければならない。
「おい、しっかりしてくれ!」
壁にもたれかかっている男に駆け寄り、身体を揺らしながら声をかける。
最初は自分の言葉に反応を示さなかったが、徐々に正気が回復したのか、受け答えができる様になっていた。
「説明してほしいんだ。 君たちが何者でどうして此処に来たのかを」
「そ、そんなことに一体何の意味があるって言うんだよ」
「僕は何も知らない、今此処で何が起きているのか、君が協力して此処から脱出するに値する人物なのか、僕は何も知らないんだ。 だから教えてほしい、頼むよ」
男の目をじっと見つめてゆっくりと声をかける。
どれくらいの時間が経っただろうか。
男はゆっくりと自分の身の上を話し始めた。
「おれの名前は山下克弘。 俺たちは怪奇現象を潰すのが趣味だった」
「怪奇現象……?」
「あ、あぁ。 都市伝説やその地域の噂話の中に本物があって……でも話ほどすごくないんだ。 せいぜい狐くらいの大きさの変なのが出るくらいで……ほとんどが雑魚だった」
「それは一体……いや、いつもはどう解決していたんだい?」
その怪奇現象の中身を聞き出したい気持ちを抑えて、現状の解決方法の糸口になりそうな情報を聞き出そうとする。
「えと、何か悪さをしている奴がいるんだ。 見た目はどうでアレ弱っちくてさ。 たまたま廃墟に忍び込んだ時に手に入れた不思議な武器で殺し回ってたんだ……その原因になっている化け物を殺せば変なことは無くなった……」
「何故わざわざそんな危ないことを君たちはしていたんだい?」
「いや、危険はほとんどなかったんだ。ほとんどの奴が大したことなくてさ……。 でも、そんなのでも化け物を退治して、なんか、こう、物語の主人公みたいでさ……。 楽しかったんだよ。 今回も行方不明者がこの辺にいるって聞いて、それで来たんだ。 今回も楽勝だと思ってたのに……なのに、それなのに…」
男は項垂れるとその場から動かなくなった。
入ってきた入り口を見ると外は分厚い霧に覆われていた。
このまま出て行っては危険だろう。
だが建物内には彼らを襲った何者かがいるのを蟲頭の男によって知っている。
「とりあえず安全に外が出られる物を手に入れないと……後は知らないといけないな。 此処で一体何が起きているのか」