キャンプ
「動くな! ちょっとでも動いてみろ! ただじゃおかねぇぞ!」
建物に足を踏み入れた瞬間、突如として男の怒号が星野一人に浴びされる。
突然の事に身体が反射的に両手を挙げ、硬直する。
目の前には男が3人立っていて、それぞれナイフと警棒、そして拳銃が手に握られており、それらは自分に向けられていた。
「ま、待ってくれ……! 私は突然、霧が発生して困っていたから此処には避難しに来ただけで……決して怪しいものじゃ」
とりあえず目の前の男たちを落ち着かせようと当たり障りのないことを口にするが、男たちは酷く興奮しており此方の話を聞いてくれそうにない。
「おいおい、落ち着きなよ。 そんなに慌てても事態は好転しないよ?」
男達の後方から突如として声が上がり、全員が其方に目を向ける。
その場にはフードを被った男が一人立っていた。
フードのせいか男の顔こそは見えないが、背丈や声から彼が男性だということが分かる。
「な、何なんだ!? お前! いつのまに俺たちの後ろに現れた! お前もアイツらの仲間なのか!?」
フードを被っている男の後ろには扉があるが、絶対にそこから男が来ていないという事を自分は分かっている。
先程まで武器を向けられて緊迫した状況、そんな状況で視線の先にある扉が開くところを見逃すわけがない。
視線を部屋の中に向け、辺りを見渡す。
部屋には受付などがあり、エントランスの様な役目をしている部屋なのだろうという事が何となく分かる。
よく見ると物が散乱していたり、椅子がひっくり返っていたりと部屋の中は荒れていた。
部屋には扉が自分が入ってきた場所以外にも三つついており、この部屋は扉が四方に付いている造りになっている様だった。
「いいね、君、凄くいいよ。 この状況で周りを見渡すだなんて中々キモが座っているじゃないか」
フードの男はいつの間にか自分の目の前に立っており、此方の顔を覗き込んでいた。
何が起きたのだ、一体何なのだ、確かにこの男は3人組を挟んだ位置にいたはずなのだ、それを自分は視界に入れていたはずだ。
だというのに、たった一回の瞬き、1秒にも満たない時間、視界を切っただけで、この男は今、数メートル離れた距離を一瞬で詰め寄ったというのか。
だが、そんな出来事が些細に感じる疑問が目の前にある。
この男はじぶんの顔を覗き込む様に顔を至近距離で覗き込んでいる。
なのにどうして顔が見えない?
フードを深く被っていたとしても見えるはずなのだ、この距離ならば顔が見えるはずなのだ。
だというのにフードの奥は真っ暗で、今まで見てきたどんな暗闇よりも濃い色をしている様に感じた。
「さぁてと四人か……どうしようかな?」
フードの男は自分達を見渡しながらそう言った。