オープニング
地獄とは死んでから行くものだと思っていたがどうやらそうでもないらしい。
「あ、あちぃ……」
力無く、項垂れながら呟く。
都内の夏は余りにも暑く、夏の日差しがアスファルトによってパワーアップしてこの身に襲いかかってくるのだ。
それはまるでオーブンに放り込まれてるような感覚で気分は灼熱地獄といった感じだった。
「昔は良かったという言葉を呟きたくなるよ」
そう言いながら自宅でスマホを弄る。
10年前の夏はここまで暑かった記憶はないのだが、自分の記憶なのでそこまで信用できなかった。
きっと来年の夏も同じようなことを考えるのだろう。
そうしてスマホを弄っているととある情報を目にする。
それは郊外の山間に出来たキャンプ場の情報だった。
自分の家から行こうと思えばなんとか行ける距離にそのキャンプ場はあった。
なによりも目についたのはそのキャンプ場の気温で、この場所と比べると10度ほど低くなっているらしい。
「キャンプか……しばらくいってないな」
自分、星野一人は今年で34歳になった。
大学生ぐらいの若い頃は趣味のキャンプに精を出していたが、仕事に就き始めた頃から余りキャンプをしなくなっていた。
というのも長期休暇が入っても仕事を理由に行かなくなってしまった。
キャンプ道具を閉まっているクローゼットを開く。
中には綺麗に整頓されているが数年以上放置されていたせいか埃を被っているキャンプ道具がそこにあった。
長期休暇に合わせて有給を取ったので休みはまだまだある。
さらにキャンプ場は避暑地としては抜群。
燻っていたキャンプ熱に火が着くのを感じながら、先程スマホで調べたキャンプ場に電話をかけた。
数コール後に相手が出てきてアッサリと予約が完了した。
自分は年甲斐もなくワクワクしながらキャンプ道具を引っ張り出して身支度をし始めた。
私はこの時の気まぐれを一生後悔することになる。
ここでこのキャンプ場に行かなければ仮初の平穏というものを享受できていたはずなのだから。