目的地までの間
「本当に、こんな時点でサラは犯人と接触してたのか?」
「でも、そうでなきゃ『頭が月を見上げて』たのを知ってるわけないよね」
ウィルが前髪をはらい、空をみる。
「それに、『女王のダンス』の一節を、口ずさんでる。きっとエミリーみたいに犯人から教えられたのかもしれないな」
ルイがいやそうに顔をしかめる。
または・・・、とジャンがこめかみをかく。
「『月』・・・から、連想したのかも。その芝居に出てくる王様のお住まいは、『月』だっていうしな」
二コルが大きな息とともに、同情を示した。
「こんな事件に利用されるなんて、その芝居もいい迷惑だろうな」
エミリーへ届けられた招待状につかわれた『女王のダンス』については、レイに教えられた時点で、劇場から特別に通し稽古の映像を貸してもらい、内容がバーノルド事件と関係ないかどうかをみんなで検証した。
が、この特異な事件とつながりそうなものは見つけられなかった。
そういえば、とルイが二コルをみやり、ケイト・モンデルの学校にはいつ聞き込みに行けるのか、とジャンをみる。
ケイトの学校に電話をかけ、彼女の《絵の買い手》をしりたいとザックと二コルがたずねてゆくと、事前にかけた電話では了承したはずの女に、あらためて捜査の許可を得てきてほしいと断られた。
「まだきてない。 きっと、税金関係でなにかさぐられちゃ困ることがあるんだろうな。あそこは警察官がはいって売買の資料を確認してるはずだ。 二度目の許可だから、なかなかでねえんだろうな」
遺族とは違い、職場や学校などの施設では、被害者を知る人間はすでにひどく入れ替わっている場合が多く、しかも、当時警察官の捜査がはいっているという理由で、警備官が再度の『掘り当て作業』をする許可はいつだってすぐにはおりない。
許可をだすのは検察経由での裁判所だ。
「ひょっとしてさ、また《だれかさん》が、嫌がらせで手をまわしてるのかもねえ」
おもしろがるようなルイの言葉に、みんながひとりの男を思い浮かべたとき、いつの間にか車は、目的の場所へと着いていた。




