頭だけで
残虐表現にご注意を
「耳を疑ったね。だってそうだろ?あんなひどい事件に、『いいな』だぜ?どう考えても、うらやむ話じゃないだろ?さすがにおれもなにも言い返せなくて、・・・そしたら、それに続けて言ったのが、『わたしもえらばれたい』だった。・・・しかも、・・そんときのサラは、笑顔だった」
「笑顔?」
「うん、・・・なんだっけ、月をみながら、さらにへんなこと言ったんだよな。バラを踏まないように、どうたらって・・・」
「・・・『あなたの白いおみ足が 野ばらを踏んでしまわぬよう』って感じの?」
「そう!そんな感じだよ!なにそれ、聖歌の『古語』?」
「まあ、そんなもんだ。―― 彼女、中央劇場で芝居を観ることは?」
「中央劇場?あんな金持相手の場所、行くことないと思うけど」
「じゃあ、なにか特別な宗教を信仰してる様子は?あと、食事や生活を、独特に制限してるとか?」
「食事?いや、食べ物に関して好き嫌いはないって言ってたな。施設の食事でそうなったって嫌そうに笑ってたけど。信仰も同じで、施設で聖堂教になったって。もともとひとり遊びが得意だって自分で言ってた。だから時々ひとりで急に笑いだしたりするんで、周りに人がいないか気をつけてるって。 ―― ふだんは静かでどっちかっつうと冷たい雰囲気なんだけど、あんときだけ、ちょっと、夢見がちっていうの?いきなり幻想的なこと口にして、月を見上げたりするからさ。おれも、らしくなく、あわててサラのこと抱きしめたよ。――― だって、月見ながら『頭だけになってみあげる月って、どんなかな?』なんて変なこと言って微笑むから、たまんなくなって」
「もういっかい」
「へ?」
立てた指を男につきだし、ジャンはバートとうなずきあった。
「もういっかい、そこを確認。彼女、―― 頭だけで、どうするって言った?」




