いいなあ
腕を組んで一度口を結んだ男が、ゆっくりと語りだす。
「だから、―― 終わって、おれが先にベッドをおりて、冷蔵庫に飲み物取りにいって、うしろから風が入ってきたから、ああ、窓開けたんだなって思ってたら、サラの声が『いいなあ』って聞こえてさ。 ―― 振り返ったら、タバコ吸いながら彼女が外見て、また、『いいよねえ』って ―――」
ちょっと、うっとりするような声を、見上げた夜空の月にきかせるように。
「 ―― サラって、おれと違って、あんまり感情露出させないっていうか、子どものころからそういう訓練してきたっていうか、・・・とにかく、自分の気持ちを表現するのに、とっても慎重なんだよ。おれが好きだって言ったときも、あんまり反応なかったし、まあ、おれは彼女のそういうとこ、好きだった・・・。ああ、つまり、その、ふだん、サラがなにかを『うらやむ』とか、そういうことも、おれ、聞いたことねえわけ。それがさ、『いいなあ』なんて、ひどく感情こもった声でいうから、すぐに聞き返したんだ」
―― なんだよ?なんかほしいもんでも、あんの?
―― う~ん、そうね、たしかに『ほしい』のかも・・・
―― なにを?あんま高いとダメだけど、買えれば買ってやるって
―― ありがと。でも、買えるもんじゃないわ
「・・・ちょっと、おれには手が出ないって言われてるみたいで、腹たって、どうせおれにはローンなんて組めないからなって言い返したら、すっげえ笑って」
―― ローンなんてきっと扱ってないわよ!だって、えらばれるかどうかの問題だから
―― えらばれる?なに?懸賞クジ?それとも、なにかのオーディション受けたのか?
渡した水のボトルに口はつけず、そのまま窓のふちにそれを置いた彼女は、いつものように優しい笑みを浮かべた。
―― わたしがいいなって言ったのは、バーノルドの殺人事件よ




