思い出をききに
そういうわけ(ノアのおごりドーナツを食べたせい)で、劇場外でクスリをさばくギャングを捕まえるためのオトリに(どう見ても、十代にしかみえないという理由で)ケンが使われることになった。
自分がえらばれた理由に納得のいかないケンが『賭け』をもうしでて、結果、―― 出た劇場の外ですぐにギャングから「いいもの買わないか?」と声をかけられたケンは、賭け金ぜんぶをバートとノアに取り上げられ、ドーナツ屋にあった募金箱にいれさせられた。
そのせいか、声をかけてきたギャングと周辺にいた下っ端を警察官がとりおさえるのにまぎれ八つ当たりしたのに、ケンはまだ少々、―― 機嫌の悪さが残っていた。
控室に警察官がなだれこんだとたん、丸めた銀紙のかたまりをつかんだ女がトイレにかけこもうとしたのを見つけ、嬉しそうにふみきって女の髪をつかむと、躊躇もなく一気に引き倒した。
すごい悲鳴をあげた女が床に倒れ、仰向けのままさらに悲鳴をこぼすと、真上から見下ろしたケンは、不機嫌にひとこと、「うるせえ」と女の耳横の髪をふみつけた。
ひきつった声をあげた女は失神して静かになる。
女にも容赦がないのはいつものことだが、この仕事は、たまたま手伝うことになっただけだ。
普段はとめることのないA班のチーフが、その後ろ首をひき、おまえはこっちだ、と眼鏡をかけた男にむかいあわせる。
ケンの不機嫌な声が問う。
「あんた、このバンドの経営責任者?」
さきほどの女への扱いをしっかりと目にしていた相手は、壊れたように激しく何度もうなずく。
「ノア、この男だけ、ちょっと借りる」
「い、いやだ!おれも!おれもそっちで連れてってくれ!」
眼鏡の男は救いを求めるように口髭の男へ手をのばすが、口髭は、片手をあげて了承した。
それに驚き騒ぐ眼鏡の男の肩を、機嫌を直したケンが叩いた。
「おれたちと、ドーナツでも食わないか?あんたの思い出話を、聞きたいんだよ」
男がとたんに静かになる。
数秒の間をとり、あえぐように発音した。
「・・・さ、・・サラのことか?」
サラ・クロフォードの名前をすぐに出した男は情けない顔をあげ、聞いた。
「あんたたち、・・・サラの話を、やっと聞きにきてくれたのか?」
ケンはバートと視線を交わし、当然だというようにうなずいてみせた。
「ああ、そうさ。―― 待たせたな」
どうやら行き先は、ドーナツショップよりも、本部になりそうだった。




