おごりのドーナッツ
バートとケンが『賭け』をすることになったのは、この《髭の男》を、劇場前の通りでみつけたせいだった。
道の反対側に見慣れた猫背をみつけた二人は、とりあえず劇場にはいらずに、そのまま近くのドーナツショップに入った。
数分後に入ってきた姿勢の悪い口ひげの男は古びたキャップをとると、こんなとこでどうした?と、ドーナツ三個を皿に、同じテーブルにつく。
「あんたこそ。まさかと思うけど、そこの劇場に用があるとか?」
その皿からドーナツを取ったケンが、髭の男に聞く。
髪型を気にするようにひと撫でする相手は、警察官の犯罪防止部のノアだ。
もういい歳だが一線からおりようとせず、街中で騒ぎをおこすギャングのとりしまりと、そいつらが扱うクスリの売買に目を光らせている。
「おまえらもか?なんだ?だっておまえら今はバーノルドの『掘り当て』やってるんじゃないのか?」
ドーナツを愛しそうにながめる男が、席からコーヒーを注文する。
「さすが年寄は、情報通だな」
ドーナツを肉のように食いちぎるケンに何かいいたそうに口を曲げたたが、思い出したように指先を軽く鳴らした。
「―― そうか。あのときのバーノルドの被害者は、この劇場に出てたか。サラ・クロフォードだな?・・・でも、もう六年も前だろう?とっくにバンドも解散してるだろうし、組んでた仲間だって、もう三十歳過ぎじゃないのか? 今日ここにくるのはもっと若くて、十代のガキどもを相手にしてる連中だぞ?」
そのサラのバンド仲間が、連中のマネジメントをしているのだとケンが教えれば、ノアは何かを見つけたような嬉しそうな笑いを浮かべて言った。
「・・・なるほど。 それならとりあえず、おれが許可するまで待て。 それとケン、 おまえ、―― おれのおごりのこのドーナツを、食べたな?」




