№10- 救いをもとめ
№10
大音響なのはしかたがない。
だとしても、これは果たして、音楽なのか?
集まった十代の若者達はいちように頭と身体を激しく振り、あおるように舞台から身をのりだした男へと手を伸ばす。
「なあ、あの男が、助けてくれんのか?」
隣で腕を組み、おもしろそうにつぶやく声はとても聞き取れるものではなかった。ただ、唇を読み取ったので、バートは、そうなんじゃねえのか、と返す。
ケンが、久しぶりにおどろいた顔をむけるので教えてやった。
「助けてくれると思い込めば、どんな相手でもそれが『救いのぬし』だ」
「ああ、『こころのよりどころ』ってやつか?・・・あんたんちも聖堂教徒なんだろ?」
ちっとも信仰してるようにはみえねえけど、と腕をくみなおす。
「はいってりゃ、死んだあと、どこにいけばいいのかすぐわかる。『聖堂教のかたはこちら』って看板をみつけりゃいいんだ」
「そんな信心深いなんてウソくせえ。しっかし、・・・救いを求めてるっていうより、おれにはどこかの過激組織の集会みたいにしかみえねえけど」
「おまえと違って、何をしたらいいのかわからない十代の若者たちだ」
「さっきも言ったけど、おれ、もう十代じゃねえからな」
「ああ、そうか・・・」
「でも、たしかに、いまは『何をしたらいいのかわからない』状態にはある」
「おまえが?―― どうした?腹でも壊したか?」
「アメリの店でちょっとふざけたら、レイが怒って、来月まで家に遊びに来るなっていわれた」
「いい提案だな。なにしろその『家』はおれの家でもある」
「あ、そっか。 レイの家には遊びに行かないから、バートの家に行っていいか?」
「おまえが今しなきゃならないのは、反省ってやつだ」
舞台のライトも届かない暗い壁際にはりついた二人は、とっくに予定終了時間をすぎたショーをしばらく眺めていたが、ある『賭け』をすることになっていたために、いちど、劇場の外へ出た。




