立派な妹
よろしくない表現あり。ごちゅういを
もともと、ドナは自筆での手紙を姉に送ったことはなかった。
毎日毎日、留守電には、自分がいかに淋しくすごし、妹を待っているかという姉の声がはいっていたが、電話はかけず、PCのタイプソフトでうった手紙を送っていた。
その日にあった仕事場のできごとを書けばよいそれを、代わりにだしてもらえないかと頼まれ、その料金を提示された。
「最初と最後に、“愛をこめて”ってかくだけで、あとは仕事場の業務日誌と変わらない。姉さんにとっては、《手紙をもらう》ってことが大事なんだって、ドナは言ってた」
内容に、一般の人間にはわからない専門用語がはいり、イニシャルで患者の容態が書かれていれば、『あの人』にはありがたみがある。
「自分が育てた妹が、こんなに立派な仕事をしているって」
「手紙で、立派な妹をつくりあげてた?」
またしてもルイが片眉をあげて声をはさめば、あなた性格悪いでしょう?と女ににらまれる。
「嘘はないわ。だって、仕事面において、ドナはほんとうに立派ですもの。―― 手紙に書かなかった《私生活》の部分でいくらひどくても、彼女は『いい看護士』だった」
そう、たとえドナ・ホーンが、職場の異性と片っ端から関係をもっていたとしても。
「それについて、あなたは彼女に、何て?」
質問するのはまた、ジャンになる。
「病院に『売春婦』はいらない、って」
さすが同性だとルイは感心してみせた。
「そうしたら、彼女なんて言ったと思う?お金はもらってないんだから、『売春』じゃないわ、って怒鳴ったのよ」
女はひとり声をたてて笑い、ふいに口をつぐんだ。
「―― 姉さんが、そうやって稼いでたのを、自分は真似する気はない、って・・・そう、怒鳴って泣いた・・・。だから、お金目当てじゃない。・・男に、『きみはいい、サイコーだ』って言ってもらいたいだけだって。・・・あたし、彼女をひっぱたいたわ」
気を取り直したように、向かいの男二人を見て、男性にとってはいい条件でしょ?と微笑む。
「同僚の看護師はもちろん、医者から出入りの薬品業者。果ては警備担当から、郵便物の配達業者まで。彼女から声をかけたり、噂がひろまって、誘われたり。・・・お金もねだらない。関係も深まらない」
「PCのメッセージページで誘ったりはしなかった?」
ルイの質問に女は片眉をあげた。
「彼女のPCは正規に登録されたものよ。そんな警察に目をつけられるようなことしなくても、相手はすぐそばにたくさんいるんだから、する必要ないでしょ?・・・ドナは、なんだかPCに触るのも嫌だって感じだった。一時期、人生相談したい人たちが集まるページに顔をだしてたら、変な男にひっかかりそうになったから、そういうのはこりごりだって笑ってたわ。よくある話しでしょ?」




