はっきりしてる
ルイは窓から庭をながめ、すごいな、と鼻先をかく。
「この広さの家で二人暮らしかあ。―― それとも、妹が結婚したら、その相手とここに来ると考えたのかなあ?」
「勝手にそう決めて勝手に買って、『いいかげん早く帰ってらっしゃい』ってなもんさ」
いらついたように舌を打ったジャンは、すぐに自分にむく視線に気づき、頭をかきまわし謝った。
「わるい。―― その、ちょっとああいうタイプ・・・、うちの母親思い出して」
「いや。珍しいねえ。いらついてる」
部屋の広さに合わせたような大きく立派な家具たちには、中身はほとんどない。
彼女が姉にあてた手紙類は、束にされて机の上に。
本棚には医学関係の雑誌数冊と、分厚い専門書が二冊だけ。
それらをベッドに並べたジャンは、大きく息をついて、専門書をとりあげると、ぱらぱらと目を通す。
「・・・おれの母親も、昔、あんな感じで、自分がいかにかわいそうか、いっつも、ずっとしゃべってた。・・・勝手にやって自分をおいつめて、『あんたたちのため』なんて言うんだぜ?まったく、こっちはいい迷惑だった」
「今は?そのお母さんと、付き合いあるんだろう?」
「ああ、まあいちおう、・・。今はな」
「なら、いいじゃないか。―― うちは、墓の下だよ」
ドナから姉あての手紙をひとつずつ開けるルイは、腰掛けたベッドにそれらを山にしていく。
パタンと本を閉じたジャンがゆっくりと聞いてみる。
「・・・今度うちのお袋と野球場にいくか?」
「いいねえ。ジャンのママとデートなんて。考えておくよ。――― ところで、これさ」
ルイが重なった紙の束をむけ、どう?と意見を求める。
「よみやすいな」
からかうようなジャンの感想に、ルイの眉が上がる。
「PCのタイプソフトで、家族に手紙を書くのって、どういう心境だろうね?」
その内容はすべて、看護の仕事を説明するものだった。
「まあ、・・・共通の話題がないんじゃ、《近況報告》しかないわな」
「プレゼントにつけられてきたカードも印刷だね。 彼女、たった一人きりの肉親に、手書きの文字を使うのが、嫌だったのかなあ」
「まさか、―― ここまで、はっきりしてるとはな」
――― ドナ・ホーンは、たった一人きりの肉親が嫌いだった。
それは、ここに来る前、ドナの恋人に聞いてきた話だ。




