全部とってある
「あなたは妹さんを結婚させるためにも、独り身を通し、彼女のために、この『家』をつくった。おれなんか未だにアパートメントですよ。すごいなあ。立派なお宅ですよね。庭だって広くて手入れが行き届いてる」
「夢だったのよ。二人で、いつか大きな家に住むって。でも、あのこはすぐ病院の近くに移ってしまったから・・・」
「それじゃ、こんなに広いと、ひとりで淋しかったでしょう?」
「でも、あのこは、すごくまめに手紙をくれたし、贈り物も・・」
「ああ。忙しくて、なかなか戻ってこられなかったんですねえ」
「そう。でも命にたずさわる仕事ですもの。しかたないわ」
「そうですよねえ。ほんとうに立派な妹さんです。お話ありがとうございました。あとは部屋をみせていただいて、いいですか?」
「ええ、いいですとも。二階のいちばん日当たりのいい部屋です。あの子がくれた手紙もプレゼントも、全部あそこにとってあります」
「『全部とってあります』って、ここのをとっておいてもなあ・・・。あの姉さん、妹が住んでた病院近くのアパートの物は、ぜんぶ捨てちゃったんだろ?まいったね」
先ほどとは打って変わり、あきれた声音でルイが部屋をみまわした。
病院から無断欠勤と行方不明の知らせを受けた姉は、その日に妹のアパートへ乗り込むと、何を思ったのか、自分で選り分け作業をして、気に入らない物は全て、捨ててしまったのだ。
その作業をしてから、警察に捜索依頼をだしたのだとわかったのは、次の日彼女の恋人がアパートを確認したからだ。
「ここにあるのも、彼女が『妹の持ち物』として認めたものだけだ」
ジャンと二人でながめるその部屋には、人が暮らした跡はほとんど残っていなかった。




