№09- 苦手な女 (ドナの姉の証言)
№09
ジャンが苦手なのは、泣き続ける女だ。
それが今、目の前にすわり、声を、身体を、ふるわせている。
大柄だがすじばった体の女は、清潔なハンカチを握りこみ、目元をぬぐうのに邪魔な眼鏡をはずそうともしない。
二人目の被害者であるドナ・ホーンの身内は歳の離れた姉だけで、その女が泣きながら訴える。
「おお、あの子は本当に優しくていい子で」
「みなさんそう言ってます」
何度目かわからない相槌をルイがうつ。
「そうでしょう?本当にそうなのです。困っている人がいれば放っておけないし、まじめだからひとりですべてやってしまうの」
「職場のみなさん、そう言ってました」
「そうなのよ!本当にそうなの!」
感情がたかぶったのか、段々と声がおおきくなる女を、辛抱強く待つ。
「それはよくわかりました。ええとですねえ、彼女の普段の生活についてうかがいたいのですが」
「普段からそうなのよ!やさしくて、いい子で!」
「ええ、そうでしょうとも」
穏やかに受け答えをするルイをなかば呆れたおもいでみやる。
―― 辛抱強いのは、この男だからか。
自分はすでにため息をもらしているが、ルイは女に身をのりだすようにむかいあい、穏やかな微笑みさえうかべ、ゆっくりと言葉を返している。
本人いわく、女性の愚痴は聞きなれている、ということだが、これってそういう範疇なのか?
母親の愚痴が大嫌いだったジャンは、いいかげんいらつく自分をどうにかなだめるのに必死だ。
すこしはオトナになったと思っていたのに、どうやらまだまだらしい。




