今年もまた
15歳で専門の学校に行き、17歳で卒業。驚いたことに『成績優秀者』というオマケつきだという事が卒業式でわかると、迷惑かけっぱなしだった母親は大泣きで、いつもあきれた顔でザックを見ていた兄は、弟を誇りに思うなんて肩を叩き、父親は、全部わかっていたさ、というように、うなずいた。
卒業後に進むのはだいたい、警察官と警備官のどちらかで、ザックは迷わず警備官を希望した。
公式の場所で目立つ仕事は警察官がやり、それを助けるのが警備官だったが、子どものころから何かと気になっていたその『裏方的存在』が、気に入ったし、なにより、―― めざしたいと思う存在ができた。
そんな気持ちで入った警備会社は、自分が考えていた《会社》とは、やはり違うもので、しかも、入ってから知ることになる驚きの事実があった。
給料は警察官と変わらないと聞いていたけれど、どうやら手当てが多いらしい。そのかわり、仕事の危険度が、警察よりも大きいときがあるというのだ。
入社式という名の入隊式で、社長だという眼鏡をかけた恰幅の良い男が、挑むように新人に指をつきつけて言った。
「―― 警察官から『要請』されれば、断れない。会社の中から、だれかが絶対に、行かなくてはならない。『手伝い』なんてやさしいものじゃなくて、君たちがやらなければならないのは、『片付け』だ。 この事実を公にしないのは、警察という表に立つ機関を『強く』『立派』だっていう看板にしておきたいからだ。それのどこが悪い? 傍から見て、警察官と警備官の区別がつく民間人なんてほとんどいない。 彼らはおれ達を見て『警察官たち』が犯罪者を懲らしめている、と思う。それでいいんだ。『警察官』は、強く立派でいい。善良な人たちはそれで安心するし、犯罪者は警戒するだろう。―― おれたちは公式の舞台に勲章つきの制服で出席する機会なんてほとんどない。社内で表彰はされるが、新聞にものらない。―― それが、我慢できないようであれば、今すぐ就職先を変えたほうがいい。 どんな危険と戦おうとも、君たちを褒めて称えてくれるのは、世間でも、首相でもなく、事実を知っている、君たちの大切な人たちと、謙虚さを知る警察官と、―― 」
ここで間を取り、太い指をぐるりとまわした。
「―― ここにいる仲間たちだ」
新入隊員である若者たちは、ここで左右を照れくさそうにみあう。
社長であるヒューは、この挨拶を気に入っている。
脇で見守る社員達は、今年もまたか、と苦笑する。