聖歌
本棚とベッドの間には、使い終えたスケッチブックが山ほどと、ひと山の音楽CD。
ウィルが感心したように手にする。
「へえ、意外だな。聖歌と聖堂曲のCDが多いね。友達の証言で、彼女、絵をかくときは、かならず小さいCD再生機で音楽をかけてた、ってあったけど・・・」てっきり流行の音楽を聴いてるのかとおもったといいながら、CDの再生機をさがすがみあたらない。
ザックが一枚手に取り、これうちにもあったな、と懐かしそうに題をよみあげる。
「それって、一番一般的な聖堂曲じゃないのか?音楽堂の演奏会とかでもやるよなあ?」
二コルは妻と聴きに行ったと、ごつい指でそこに印刷された楽団をしめす。
前髪を払ったウィルが皮肉気に口をまげた。
「たしかに。どうやらケイトは、母親とは違う、普通の宗派だったみたいだね」
この国でいちばん信者の多い、『旧派』の『聖堂教』だ。『神様』は信者に、それほど無茶なことは望まない。
「でも、おれ、教会に行くのが嫌だったなあ。あの聖歌の《古代語》ってなんだよ?テンポもないし、暗いし」
ザックのうんざりした想い出に同意した二人もわらいながら、スケッチブックとCDを確認してゆく。
「これ・・」スケッチブックをめくっていたウィルが、それを二人にみせた。
ザックが感心した声をあげ、その流れるような線描を評する。
「うまいなあ。木がいっぱいだ」
「あのなあ、ザック。そういうのを『森』っていうんだ」
「そう。これは『森』だ。―― じゃあ、どこの?」
ウィルの問いに、ニコルとザックは顔を見合わせる。
「・・・一番近い森っていったら・・」
「バーノルドだ」
二コルが先ほど写真をはったコルクボードにいそいでもどる。
 




