言えない理由
「おれ、あの人が悲しんでるようには見えねえけど。どっちかっていうと、怒ってんじゃねえの?」
埃をたたせないよう、そっと木枠を持ち上げたザックが口をまげた。
二階のケイトの部屋から続く屋根裏部屋には、彼女がこれまで描き続けた絵が、すべて残されているのではないかと思える量、重なっている。
二、三歳の子どもが描いたような画用紙の絵をながめる男がばかにした口調で言う。
「『悲しんで』はいると思うよ。ケイトがあんなふうに死んで、これじゃ自分は『神様』に顔向けできないって」
「ウィル、彼女はたった一人の子どもをなくしたんだ。そんなふうに言うな」
三人の男はそれぞれ小型のライトを制服の肩に差し込み、その光であちこちにかたまって置かれた絵を確認してゆく。
「たった一人の子どもだったのに、最後まで理解してあげなかったんだ。聞いただろう?ひどい言いようだったじゃないか。彼女がゆるしてもらわなきゃならないのは、神様にじゃないと思うけどね」
ウィル、と再度注意するように二コルに呼ばれ、少々こどもっぽいところのある貴族様は黙る。
「おれもウィルに賛成。――― 彼女の学校の友達も、言ってたんだろ?ケイトが行方不明だってわかっても、あのお母さん別に悲しんでなかったって。それに、ケイトは自分の父親が誰だかいまだに教えてもらえないって、それが母親を信用できない理由だっていっつも口にしていた。二コルだったらどう? そういう母親と仲良くできそう?」
「それは、――― まあ・・・、なにか言えない理由があるんだろ・・」
何かかばうことを口にしようとした二コルも、さすがにそれ以上言えなかった。




