ファイル№01ー ザックの進路 (入隊初日)
ファイル№01
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この国で警察官が不足しだしたのは、ずいぶんと昔の話。
なにしろ犯罪者の数が、ひどい速度で増していったから、取り締まるほうの人手が追いつかなかった。
いっとき、警察官の数を増やすべく、質を下げたら、たちまち不正の温床になり事態は悪化。
そこで政府は、民間の警備会社に目をつけた。
元々、警察官だった人間や、軍隊にいた人間を雇い、さらに独自の訓練と装備で強化されたその組織が、警察業務の『手助け』をできるよう法を改め、それが定着してからさらにいくつもあった民間警備会社を数社に合併、そこからしぼって指定し、手助けする人間の質も統一化してから、ほぼ四世代分の時代は流れている。
ザック・アシモフは子どもの頃から、少々手が早い、正義感の強い少年だった。
いわゆる『普通の家庭』で、両親と兄のいる4人家族。
母親は家で仕事をしていたから、顔をあわせるたび怒られていた記憶がある。
技術職の父親は無口で、いつも静かに人の話をきいてくれる穏やかな性格だったが、母親はそんな父に、あなたが怒らない分、わたしが怒らなくちゃならない、と、何度かつめよったことがあり、子ども心に父親に同情したこともある。
まあ、そんな、ちょっと問題ある子どもを暖かく見守ってくれた家族のおかげか、かなり好き勝手に過ごした思春期も終わりにさしかかり、そろそろ将来を見つめようと思ったときに、父親の「おまえはきっと、警察官にむいてるよ」という一言が背中を押して、こっちのほうに進んだのだ。