※ 保安官
トレイシーのこぼした小さな罵りが届いたように、相手は手にした紐をきゅ、と引き、その動物を待機させた。
訓練された狩猟用の犬は、男の足元にぴたりと身を固めている。
こちらを確認した男は左肩からさげた紐をたぐりよせると、その先についた小さな金属を吹き鳴らし、いかにも職業的な笑顔をみせた。
「お若い方たち。その格好じゃあ、ここの散歩はきびしいでしょう?」
オレンジ色のバッジをつけ、モスグリーンの制服を着た、保護区域の保安官だ。
足元でこちらをうかがう犬は、何かを訴える鳴き声をあげる。
「どんな格好だろうといいだろ?」
「そうよ。みんなのお散歩場所でしょ?」
リッジとトレイシーが、ずい、と前にでた。
が、今度は反対側から別の保安官が数人、現れる。
「・・・笛で呼ばれてくるなんて、ほんとあんたら、イヌみてえだな」
ばかにしたピートは目を左右に走らせている。
最初に現れた保安官が、顔をうごかしてみせれば、笛で呼ばれた仲間がピートをまっさきにおさえこんだ。
「なにしやがんだよ!!」
いきがってさわぐが、ポケットの中からナイフをだされて、すぐにおとなしくなる。
「親切にも、樹木に矢印がついていてね。たどったら君たちがいたってわけだ」
「しらねえよ!」
「そうだろうとも。自然保護区域内の自然破壊がいかに厳しく罰せられるか、なんて、坊やたちにはまだ、難しいだろうからな」
その犬を連れた保安官に、横で抑え込む保安官が押収したナイフを渡すときの、一瞬だった。
「くそったれ!!」
ピートが蹴り上げたブーツには、デザイナーの趣味でつけられた、“スティング”とよばれる突起の飾りがある。
仲間内ではそれをけずって尖らせるのがはやっており、《かっこいい》とされていた。
ジェニファーは、彼が馬鹿みたいに、それに手を加えていたのを知っている。
っぐあああ!
顔をおさえこんで倒れた保安官の叫びとジェニファーの悲鳴が重なっていた。




