贈られた場面
「『反乱』かどうかぼくはよくわかんないけど、結局、『王様』はひとりになってしまって、『王様』ではなくなるってことだよ」
「反乱軍が捕まえて処刑か?」
ケンが親指で首の前を横になぞる。
「あのね、そういうのはないよ―― この王様は、どうやら月に住んでいるらしくて、女王に選ばれた女性に、『あなたはずっとこのさきも、おひとり月にとらわれて、《孤独》を相手に踊ればいい』って言われて、妖精の国を去ってゆくんだ」
「なんだ、追放か」
残念そうなケンが水を飲む。
ジャンが資料に目を落とし、かんじんなことを聞く。
「この、エミリーに贈られた一節って、どういう場面だ?」
とたんに見合ったレイの笑顔が固まり、視線をはずしたまま説明しだす。
「えっと、・・・この言葉をおくられてる女性が、後にその『女王』になる主役の人なんだけど、その人が家を出る決心をして、外に出る場面だよ。―― 彼女は幼いころ両親に捨てられて、歳のいった男に拾われたんだけど、いつの間にかその男の妻として暮らしているんだ」
ジャンがゆっくりと口をひらいた。
「それって、―― 彼女の意思と関係なく?」
「うん。ひどい扱いを受けてて・・・なにもわからないうちに、彼に奉仕することを教え込まれてる」
ジャンが眉をしかめザックが舌を打って下品な言葉をはく。
「彼自身はすごく裕福な暮らしをしてるのに、彼女が好きだった食べ物をやめさせるとか、自由になるお金は絶対に渡さないで、外にも出さない、とか」
「なんだそりゃ?ああ、暴力がこわいのか・・・」
不満げに身をのりだしたザックは困ったようにスツールに座りなおす。
横で腕を組んでいたジャンが、確認していいか?とレイにきいた。
「その女性は、年よりの男に、『好きなものを辞めさせられて』、そいつに『奉仕』するような生活を送ってる?」
うん、とうなずくレイの横で、ケンが「どっかできいたことあるな」とザックににやけた顔をむけた。
「・・・あ。もしかして、・・エミリー!!」
「おれもそう思った。でも、どういうことだ?彼女にこの芝居の真似をさせたかったのか?それで、いったい何に『招待』する?彼女はこの芝居のオーディションすら受けていない」
「だけど、『選ばれた』から喜んでたんだろ?役者志望なら、このセリフのことも知ってただろうしな。自分が『女王』になる役だって」
「うまくだまされたんだろうなあ」
ザックが声を落とすのへ、頭をかきまわすようにかいていたジャンが、今日はもうやめだ、とファイルを閉じて立った。




