『 女王のダンス 』
『招待状』の中身は、《特注品》扱いで仕事をこなした印刷会社の資料に《参考品》として写真を撮られて残っていたが、それは手掛かりにはならないものだった。
指定されたPCメッセージのページは、恋人同士がデートの約束したり、おすすめのデートコースを紹介しあう普通のメッセージページだ。
「―― どんなメッセージがのってたのかは、もうわからないけど、当時、警察にもうちにも何の連絡も残ってないってことは、何の問題もない印象に残らないふつうのメッセージだったんだろう。・・・だけど、これを頼んだ、『アレックス』っていうやつは、自分の正体をとことんかくしてる。ゆえに、おれたちはその『アレックス』っていうのが、どこかのおかしな宗教に属する男で、エミリーをバーノルド事件に誘い出したやつだとみてる」
ジャンは、印刷会社から『掘り当て』してきた資料をキッチンのカウンター上に並べる。その会社も、このての『招待状』をつくったのは、これきりだと判明。
ほかの印刷会社でも、被害者たちの名前にあたる女性に何かの招待形式のカードを作ったということはみあたらないということがわかった。
「とりあえず、招待状の印刷された日付からみても、彼女が嗜好をかえるきっかけになったのが、この『妖精の王国』がからんでるってのがわかったけど、そこまでだ・・・」
同じ『招待』であっても、バーノルドの森にウィルたちを招待した『ジャック』とも、関係があるのかどうかも、さぐりようがない。
残念だ、とため息をつくジャンが手にしたものは、印刷会社が見本のためにのこしておいた、エミリーに実際に送られた《招待状》の写真だ。現物の印刷は一枚きりという契約であったため、会社の印刷責任者がそっととっておいた写真だった。
レイがのぞきこみ、声をあげる。
「わあ、すごい。いい紙使ってそうだねえ。それに、きれいな色のインクだ。本物のペンで書いてあるみたいだし、書体もすごく合ってる。ほんとうに『妖精の国』からきたみたいですてきだなあ。ねえ、ジャン、―― これ、きっとそうだよ」と、顔をあげた。
目の合った男は困った顔で、なにが?と聞く。
「だから、この『妖精の王国』、ぼくが知ってる王国だよ。 ジャンがさっき言った、ウィルがくちにしそうな詩って、これだよね?たしかに、彼なら口説き文句につかうかも。なんていっても、中央劇場のロングランだし。・・・そっか。こんな招待状を送られたら、女の子は嬉しいだろうねえ。ぼくもこのお芝居、すごく好きだよ。
《 必ずや、今宵の月を のぼらせましょう
あなたの白いおみ足が 野ばらを踏んでしまわぬよう
その軽やかな舞のまま この手をお受けになられるよう 》
――― 『女王のダンス』だよ。この場面、印象に残るよねえ」
レイが嬉しそうに『キザな詩』を読み上げるのに、三人の男が顔を見合わせ、目で会話をしてお互いに首をふる。
エミリーが年上の恋人と出会ったのはたしかに中央劇場だし、その半券を見つけたが、そのときの劇は、そんな題名ではない。




