特注品
「たしかに、ナタリはどこか信仰を憎んでるみたいなとこもあったって、証言もあったな。その反動で勉強しようと思ったんだろうって。―― なあザック、ナタリにも『招待状』がきてたか調べてくれただろ?」
ジャンの言葉にザックは首をふった。
「ナタリだけじゃなくて結局他の被害者みんなも調べたけど、招待状とか、なにかの新しい宗教の話しとかもまるでなかったよ。信仰するのは、宗派はちがうけど、みんな『聖堂教』だし。もちろん、エミリーみたいに、『妖精の国』とのつながりも」
「えっ!?妖精の国!?」
ザックの言葉の途中にレイが興奮したように身を乗り出した。
片手をあげたジャンが落ち着くようと、レイの肩をおしもどす。
「正しくは『妖精の王国』っていう、どこかの新興宗教団体だと思う。どうやらエミリーにはそこから招待状がきてたようなんだ。だけど、けっきょく何もわからなくておれたちはゆきづまってる。」
「え?宗教なの?」
「ああたぶん。断言できないのは、『妖精の国』っていう宗教の情報が警察にないんだ。―― エミリーの手元にあったのは、表面に『選ばれたあなたへ』、裏に『妖精の王国』って印刷された封筒だった。特徴のある造りだったから、すぐに印刷会社は見つかったんだけど、依頼主には、残念ながらたどりつけなかった」
「中の文面は?」
レイの質問に、ジャンがファイルから数枚の写真を引き抜いた。
「注文主は、電話で《おとぎばなし好きな彼女に夢のあるカードを届けたい》って伝えた若い男だ。前金が郵便で届けられた時点で、印刷会社ははりきって仕事をした。気前のいい依頼者とのやりとりはすべて、電話。こまかくて質の高い注文だったんで、それなりの社会的地位のある人物だろうという想像のもと会社も気合入れて作った特注品で、紙の仕様からインクの色味までよく覚えていたが、電話の相手のことは若くてなまりのない話し方としか記憶がない。―― 残りの払いも郵便荷物としてだ。ほんらい本来郵便で送ってはいけない額の現金だったが、郵便ポストに入る大きさと重さだったし、危険物検査にひっかからなかったから、何の問題もなしってわけだ。 ―― それで、招待状の中身はこの写真にあるとおり、送り主『 《アレックス》から、愛するきみへ ここにあるPCメッセージのページを、このまえ伝えた日にちのあの時間に見てほしい 』ってことと、ウィルが口にしそうな、キザな《詩》だけだ」




