信仰
「これが終わったらおまえも一緒に遊びに行く。バートは留守番だ。よっし、ザック、さっきの続きはじめんぞ」
さっきまで事件の整理をしてたんだとレイに説明する。
ザックが意外そうにジャンを見る。部外者に話してもいいのだろうか?
疑問をよそに、キッチンのカウンターを中心にみんな椅子に腰かける。
ザックはまたファイルを受け取った。
「えっと、三年前の被害者はナタリ・キットソン、十九歳の学生。そばの木の上にはサラの頭部を発見」
「ナタリは、何を勉強してたの?」
いきなり、レイが質問し、思いがけないそれにザックはファイルをめくる。
「えっと・・『民族習慣と信仰学』?だってさ」
「彼女の信仰は?」
続けての質問にはジャンがこたえた。
「家族は聖堂教みたいだけど、友達の話じゃ、彼女自身はむかしから、ほぼ無信心だったみたいだ。大学を選ぶ時期になってから、急に研究熱心になったみたいだって」
「彼女の家系、移民かな?」
腕を組んで質問しつづけるレイが首をひねる。
指で資料を追ったザックが、よくわかったなあ、と感心する。
「学校の先生してる人にきいたことがあるんだ。―― ひどく無信心か、ひどく研究熱心な学生は、移民の三代目以降の子が多いって」
「へえ、どうして?」
ジャンも興味深そうに、新しいビールを取りに立ち上がる。
「無信心になるのは、『神様』ってものに、愛想をつかすからなんだってさ。―― この国に来る移民の人たちって、たいてい、信仰の対象を変えちゃうらしいよ」
「そんな簡単に、信じる『神様』って変えられるのか?」
笑いながらジャンが缶をあおる。
首をかしげたままのレイも、困ったように笑った。
「きっと、簡単じゃないと思うよ。ただ、・・・みんな、苦労しすぎたせいだと思うんだ。移民先に自分たちの『神様』も一緒に連れてきて、新しい土地での成功をお願いする。だけど、なかなか、いろんなことがうまくいかない。・・・そんなとき、改宗したほかの人がどこかで成功したりしたら、『神様』のせいにもしたくなるのかもね」
「はん。新天地での博打の勝敗は『神様』がにぎってるってか?」
ケンがおもしろそうに鼻をならすのに、 ジャンが渋い顔で言う。
「まあ・・・たしかに一様には笑い飛ばせないな。この国で成功したいなら、『教会』でのつながりも大事だろ。《生誕祭》をみろよ。おれたちも何度か警備でかりだされたけど、大聖堂教会に集まるあの顔ぶれ。―― たしかに、この国は移民といっしょにその宗教も受け入れているようにみえるが、根底にはれっきとした差別があるのは確かだろ」
断言に、レイが困ったような顔をして、みんなを見る。
「その先生も言ってたよ。助けてくれると信じてる相手に裏切られたような気分になって、段々と自分たちの『神様』が信じられなくなっていくんだろうってね。―― あ・・・ごめん。これって、ぜんぜん事件と関係ないよね」
よけいな話しでごめん、とグラスに口をつけた。




