うそだあ!
「あぶなくはぐらかされるところだったぜ。なあ、ジャン、なんだかみんなはっきり教えてくれねえんだよ。――― あっ!!そっか、ジャンがさっき電話してた相手って、その人なんだろ?」
代わりに連絡してたんだな?とニコルを押しのけるように小さな仕切りに顔を突っ込む。
まあそうだけど、とエンジンをたちあげた男に、ザックはさらにくいさがる。
「じゃあ詳しく教えてくれよ。どんなひと?すげえ親しそうだったじゃん」
「まあな・・・あのさあ、ザック、お前確か、バートに憧れてうちの班を希望したんだよなあ?」
「もっちろん!ほら、あの《爆弾魔の事件》だよ。新聞で、この人すっげえって思ってさあ、希望すんなら絶対バートのとこだなあって思ったから」
「へえ」とルームミラー越しの愉快そうな視線をもらったザックはなんとなくばかにされたような気になり、むっとして鏡の中の相手をにらむ。
「いや、それなら、バートの他の噂も聞いてんじゃないのか?」
「・・・そりゃあ、まあ、眉唾もんから拍手喝采なもんまで、色々、聞いてたけど。なんかゴシップ雑誌にも、出ることあるって話もきいたよ。おれはそういうのみなかったけど」
「なるほど。―― お前は少々、バート信仰が強いみたいだな。かたよりすぎると、おまえのことを《のぞきに来るやつ》が出てくるぞ」
「うえ!?やめてくれよ!」
本気でのけぞった様子に背後で笑い声がはじけた。
ギアがつながり、車が動きだす。
Uターンするのにあわせて体がゆれて、笑ったままの班員と対面することになった。
ウィルがおもしろいことを提案するような顔で言う。
「べつに、バートにとめられてるわけでもないからさ。言ってもいいんじゃないの?」
「ザック、ゴシップ雑誌ってのは、ときには本当のことをのっけるもんだ」
ニコルが重々しくうなずく。
「まず、あの人が元貴族階級の息子ってのは、ほんとだよ。あそこはたしか、将軍の血筋じゃなかったかな」
ウィルは、顔にかかる髪を指で払う。
「え?・・・じゃあ、なんか、・・あれ?もしかして・・・」
何かを思い出したようなザックにケンが意地の悪い笑みを浮かべてみせた。
「あたり。あの『ふたり』、もうすぐ結婚すんじゃねえの」
「へ・・・・・・・・・・・・・・・」
「聞こえなかったかな・・」
「聞こえたから固まってんだろ」
「でもケン、もうちょっとさあ」
「ああ。・・・思いやりがみえないな」
固まったザックを楽しむような男たちの声を聞き、ジャンは次の事態を予測して、仕切りの強化板をぴしゃりと閉めた。
ううううううう
ソぉオオおおお
だああああああああああああああああ!!!!!!!
ザックのおたけびが車内に充満した。
※※※
ほのぼのは、いったんここまでとなります