直接きけた
レイが持ってきてくれた試作品のつまみ(鶏肉とキノコとナッツまではわかったが、調味料とかの話しはまったく理解できなかった)を食べつつ、ビールをあけたザックは、ソファに座り、背中に『なついた』男をくっつけたままのレイの話しに興味深々で耳をかたむけた。
なんでも、バートとは親同士が友達だったので『幼馴染』だとか(それで『友達』じゃないってわけだ)。
両親が亡くなってから、バートの両親が自分を引き取ってくれて、今は(なんと!)バートと同居してるとか。
あのレストランにはバートの親が紹介してくれた、とか。あの男とは親戚のような関係らしい。
なるほど、『友達だったことはない』という言葉も納得できた。
気になっていたことすべてを直接本人にきけてザックも気が楽になった。
レイは控えめな雰囲気で、うれしそうによく笑う、気のいいやつだった。しゃべりかたはすこしゆっくりで、ちょっと考えるように間をとったり、首を傾け、熱心にこちらの顔をみつめながら話すので、外見に合わず子どもっぽくてわらえる。あわせた眼がきらきらとしていて、髭もみえない口もとのせいで、よけい幼くみえるのだろう。
顔と同じ幅の首は、ザックの片手で持てそうだなとおかしなことを考える。
レイの背中にもたれるように身をあずけたケンは、どうやら今は眠っているようだ。ほんとうに動物のように、甘えるようにレイの肩に顎をのせたり、髪に頬をすりつけたりと、それこそ、『なついて』いるのをずっとみせつけていた。
にやけた笑いをうかべ、さめたことを言う、ザックが『こわい』と感じたあの男と同一人物とはとても思えない。
だが、さらに驚いたのは、レイのほうも、ザックとしゃべりながらもフォークで刺した料理をケンに食べさせてやったり、頭に顔をすりつけられても、軽くその頭をなでてやったりと、本当にまるで・・・
飼い主か、――― または、恋人か、・・・・
寝顔をみたら、急にその目がひらき、ザックににやりとしてみせてからレイの背からはなれる。
「そういえば今日、バートは?」
使い終わった皿を洗浄機にいれるジャンがふいにおもいだしたように、自分たちと同じく非番の男の所在を聞くと、でかけてる、と答えがかえる。
「ああ、そっか。社内会議か」頭をかいたジャンが、ソファにもどり、また資料のファイルをひきよせた。
「―― あのさ、」とレイがくちごもり、ジャンをうかがうようにみた。
「バートが帰ってくるまで、・・・ここにいてもいい?」
「・・・レイ、すぐに迎えに行ったのに、なんで呼ばなかった?」ケンの声が変わった。
続けて、ジャンの大きなため息をきかされる。
「はあー・・・レイ、おれたちに気をつかってどうすんだよ?」
「でも、ほら、あの、ザックが来て、みんなで遊びにでかけるみたいだって聞いたから・・・」
おこられた子どものように口ごもるレイの頭を、片手でつかんだケンが、「次から言い訳はなしだ」と言い聞かせるように顔をのぞきこむ。
本当におこられたこどものようにレイがだまってうなずき、よしわかった、とジャンが手を打ち立ち上がった。




