レイになついてる
短時間でそこまで確認すると、こちらになんの警戒ももたない相手は、しっかりと目をあわせたまま右手を差し出してきた。
「はじめまして。レイモンド・ バーナルです」
レイってよんでほしいと言う様子は、親しみのもてるものだった。
「おれ、ザック・アシモフ。・・想像してた感じとぜんぜん違うよ。よろしく」
細い手を握り返すと、照れたように首をかたむけた。。
「子どもっぽくみえるかな?」これでもザックよりは上なんだけど、なんて笑うのにすこし驚く。
キッチンの奥のジャンが「もっと堂々としてればいいんだ」と言った。
「・・・いや、別に子どもっぽいっていうんじゃなくてさ。―― あのさ、想像してたのは、あの有名レストランに勤めてて、バートと仲良しってイメージだったから、ほら、レストランにいた眼鏡のヤツみたいな感じの《食えない奴》なのかなって思ってさ。 バートにきいたらレイと『友達だったときはない』なんて言うし、だとしたら、仕事上の付き合いってことか、それともあれって冗談で、実はすごい親友とか?」
あの、強面な男との取り合わせに違和感を感じながらそう聞くと、ぱちりと音がしそうなまばたきがされ、次にはそのきれいな顔が赤くなった。
「えっと、・・・その、―― 」
照れたように前髪をかきあげる。
さらされた額の横に、古い傷跡があるのが目に付いた。
とまどったようなレイの横からジュースを持ったジャンが割って入り、まだ握手したままだった二人の手がはなれる。
「レイも飲むか?」
「あ、飲む飲む」
すると、それまで壁に身をよせて気配を消していたケンが、いきなり背後からレイにとびついた。
「レーイ!元気だったかあ?」
レイは笑いながら首に回された太い腕を叩き挨拶を返す。
「レイに会えなくて、すっげえさびしかったぜ」
ケンがかかえこんだレイの頭に顔をこすりつける。
「ええ?この前会ったよね?それで、新人が来るってすごく嬉しそうだったじゃん?でもザックのことあんまりからかわないでよ」
「ザックもからかいがいありそうだけど、おまえのほうがいい!」
レイのからだに腕をまわすと、そのまま抱え込むようにしてソファにたおれこんだ。
勢いに取り残されたザックは、ジャンによばれてキッチンの椅子に腰掛ける。
「ケンは、レイに『なついて』るんだよ」
なるほど、と納得した。その表現がしっくりくる。




