見つめてる
「だとするとさ、ナタリのつきあってた『男』ってのが、でてこなくてもうなずけるわけさ」
いいながらドアをあけたルイをあわてて追ったザックの背中が消えると、二コルが嬉しそうにウィルをみた。
「ザックのやつ。なかなか素直で、いいとこをついてくるじゃないか」
「かなり子どもっぽいってことだよ」と貴族様は前髪を払った。
笑った二コルが端末機を取り出す。
「今までの被害者も全員、何かに『招待』されてないかどうか、調べなおしたほうがいいな」
「なら、ぼくがジャンに連絡して全部の資料を用意してもらうよ」
いままでのやり取りに一言も口をはさまなかったケンを、気味悪そうにみてからウィルは片手をあげ先にでた。
残ったニコルは腕を組むケンの横に立った。
「―― なにか、気になるか?」
「・・・ああ。なんか・・・な」
天井をみあげたがケンは、通りに面するリビングの窓をさしてみせた。
「捜索中、ウィルが窓のカーテンを閉めてずっとそのままだった。他に窓は台所と浴室だけだろ?なのに、―― ずっと見られてるみたいな気がしてた」
「それで?どこかにカメラがあったか?この頃のは小さいからどこにでも仕掛けられる」
「ない」と天井をみあげたままこたえたケンが、きもちわりい、と首をひねると、唐突に、おれ夜食買ってくるわ、と部屋を出て行った。
天井をみあげ、部屋を見回した二コルが閉まったままのカーテンを開ける。
明るい陽射しが床にさしこんだ。
「ん?」
光にてらされた床に、ちいさな傷がいくつもある。
最近ついたらしいその新しい傷跡は、小さな動物の爪あとのようだった。
「家主がいなくて、ネズミが出てきたんだな」
自分を見つめていたのがネズミだったと知ったら、ケンはきっと、こどもみたいに怒った顔をみせるだろう。




