封蠟
冗談はもういいというようにニコルは手を振る。
「そりゃあきっと、どこかの企業の宛先不特定広告ってやつだろ?うちの女房にもよく届くやつだ」
ポストに直接放り込んでいくんだ、と仕事に戻ろうとするのに、ウィルがその封筒を渡してきた。
「おれもそう思ったけど、―― よく、さわってごらんよ」
いわれなくても、手触りで、かなり上等な紙だとわかった。
しかも、ケンがそれを電灯にかざしてみれば美しい模様が透けて浮かび上がる。
表の字も、裏にある『妖精の王国より』とある字も、その封筒に合わせたように、古く美しい書体だが、どうやら印刷のようだ。
感心したようにルイが封筒を目の高さで確認してゆく。
「まあ、確かに金はかかってるみたいだね・・・これって・・・封蝋がしてあったんだろう?」
封筒のあけられた場所を指でなでる。
つるりとした感触があり、そこがうっすらと赤く、何かが残っている。
ザックが眉をしかめ、「『ふうろう』ってなんだよ?」とみんなを見回す。
ウイルが前髪を払いながらこたえた。
「蝋で固めて封をするんだよ。いまどき『封蝋』なんて、うちの父親でもしないよ。―― まあ、おおげさなパーティーかなにかで、相手に直接もってゆく招待状なら、別だけど」
肩をすくめる『貴族様』に再度、視線が集まった。
「・・・・だから、スタンプが、ないのか」
ルイのつぶやきに二コルがうなずく。
「広告なんかじゃなくて、本当に誰かからの、招待状ってわけだ。手渡しの」
ウィルが、いまいち納得しかねる様子でききかえす。
「エミリーは何かに『選ばれて』、自分のお祝いをした。 選ばれたのは『妖精の王国』ってとこが主催するパーティーか何かの参加で、彼女はその招待状を持って会場に行ったから、封筒だけここに残った。 ―― で、そのパーティーってのが、《変わった宗教団体》の集まりってわけ?」




