封筒
でもさ、とザックが首をかしげた。
「書いてあったの、『合格』って言葉じゃなかったろ?『選ばれた』ってだけ。それって、ただの一次通過とかなんじゃねえの?ここに来てから何かに『合格』したことがあるなら、あのおっさんにも言ってるんじゃねえのかな」
ニコルもうなずく。
「仕事仲間に確認したが、彼女に『おめでとう』を言った記憶はないってことだ。前はよく、休憩のときによくセリフの練習をしてたみたいだし、オーディションを受けることになるとみんなに報告してたらしいが、今の恋人と出会ってからなくなった。みんな、年上の恋人に気をつかって夢をあきらめたんだろうって噂してたらしい。―― だから、彼女の職場では、芝居の話しはもうしないようにしてたってことだ」
そのとき、まるで自分の家のように、ソファでくつろいだ姿勢のまま仕事をしていたウィルが、手にした白い封筒をふってみせた。
「ねえ、これ、その話題のオーディションの『合格』通知かもよ。すごいところからきてる」
みんなの視線が集まったのにうれしそうに微笑む男は言った。
「差出場所はなんと、『妖精の王国』より」
期待していた四人の男たちはそれぞれ苦笑をもらした。
ウィルは続ける。
「宛名は『選ばれたあなたへ』だけ。エミリーの名前なし。住所もないね。 ああ、郵便のスタンプもないから日付はわからない。オーディション会場で直に渡されたのかな」
「中身は?」
二コルの問いに、ウィルは封筒をあけて逆さに振った。何も出て来ない。




