『ほりあて』た
「恋人なのにセックスなし。おまえ、そういうのどう?」
空になった棚を壁から動かすケンが、ライトを片手に聞いてきた。
「 え? う、うーん・・・。 まあ、ちょっと、困惑するかな」そもそも、それって恋人になるのかな、とザックは考えた。
「だよな。めんどくせえ女」
まるでじぶんがその相手をするように顔をしかめた男は、ライトをザックに放り投げると身をかがめ、棚の裏に腕をつっこみなにかを拾いあげた。
「―― ピンだな」
白い頭のついたメモなどをとめる針だった。
ケンはザックを手招きし、ライトを壁にあてるように命じると一か所をさす。
「みてみろよ。壁に穴だ。そんで、このピンっていうことは?」
「ピンがこの壁から抜けて落っこちた。・・・棚の裏に、なにかピンでとめて?」
ザックが絨毯に顔をつけて棚の下をのぞきこむが、何も落ちていない。
「警官が拾ったんじゃねえの?」
警察官が、遺体の身元がわかってすぐにこの部屋を調べているのだ。
眼には見えない大きさの、科学的な物証や痕跡を細かく拾い、手紙や書類から、隠された情報や人間関係もあらいだしているはずだ。
警備官のおこなう『掘り当て』の作業は、そんな警察官の作業からも《とりこぼれた》ものをさがすためにある。
「こっからの押収品で、《ピンで壁にとめてあった》ものなんてあったか?おれの記憶じゃそんなもんなかった。―― っつうことは」
ケンが棚を回すように動かし、ザックにその棚裏がみえるようにした。
「あ」
棚の背に渡された一番下の横木に一角を差し込むように、埃にまみれた紙切れがあった。
思わず拾えばケンが大声でみんなにしらせた。
「おい、ザックがなんか『掘り当て』たぜ」
あわててみたケンは棚をもどして立ち上がり、本をもどしておけよ、とザックに命じた。




