№06- ここで問題
― №06 ―
で?そのおっさん泣き出したのか?とケンが振り返る。
「うん。店中の視線を集めて」
へえ、とわらいながら本をとりのぞいた大型の棚をのぞきこむ。
床に積んだその中身は、芸能求人関係の雑誌と、芝居の関係者が書いた理論本から暴露本までとさまざまで、引き出しから出したファイルには、劇場のチラシやパンフレットなどが年代ごとにおさまっていた。
エミリーの恋人から話を聞き終えたザックは、本部にゆくというジャンと別れ、エミリーの家で、警察官がとりこぼした《何か》をみつける『掘り当て』をする他の班員に合流していた。
濃紺の制服を着用し、手には薄いゴム手袋をつけ家具をひっくり返す男たちは、エミリーの狭いアパートメント内すべてを見なおす作業中だ。
「泣くってあれか?ガキみたいに声あげて?」
ケンが手を動かしながらきく。
「まあ、そんな感じ。・・・あんなじいさんがおれらぐらいの歳の娘とよく付き合えたなって、あやうく口にするとこだったけど・・・」
ジャンに首を振られて、飲み込んだのだ。
「・・・そういう付き合い方もあるんだなって。・・あの人、本当に悲しんでたよ。なんだかへんにえらそうなおっさんで、会ったとき、なんだよ、って思ったけどさ。―― いくら人生経験つんだって、愛する人に死なれたら、何歳になってもやっぱ悲しいんだなあって、あの泣き方見てたら、ちょっとかわいそうになった」
視線をさげて床に置かれた本の中身を確認するザックに、にやけたケンが最後のファイルを渡したとき、ドアのむこうで会話を聞いてい男が疑問をのべる。
「―― さてここで問題になるのは、彼女のほうは、はたして、ほんとうに彼を愛していたのか?」
リビングのテーブルで請求書の束を確認しているルイだった。
「ボランティアだろ」
すかさず寝室からケンはかえす。
単身者用の狭いアパートメント、どこにいようと会話は可能だ。
「それ、あるかもね。売春している女達で、老人たち相手のボランティア団体つくったっていう話し、聞いたこともあるしなあ」
リビングのソファでくつろぎ足をのばしているウィルが、紙ばさみの中身をみながら言った。
「おいおい。俳優めざしてここまで出てきて、そういう方向に?違うだろ」
キッチンにいるニコルが首を振る。




