認めない
「他には?なにか、その宗教の集まりに出ていたとか、誘われたことは?」
「集会に?いや、誘われなかったし、興味もなかったので聞いたことはないね。普段の生活に支障をきたすほどでもない。 レストランでも羊と牛の肉は食べないが、鳥類は食べたし、豚も普通に頼んでいた。 それに、聖堂教の古い教会にも、旅行のとき一緒にはいったことがある。ああ、そのときの彼女になんと教会の地下でねだられたが、さすがにそこではやめておいたよ。―― そんな感じで、すこしばかり聖堂教の『神』を軽んじているところはあったかもしれないが、・・・まあ、いい旅の思い出だ。宗教にかんしてはそれぐらいの印象だ」
その旅行を思い出しているのか、男は満足そうにカップに口をつけた。
「彼女の両親にも会ってますよね?彼らは?」
エミリーの両親はすでに帰ってしまっていたので、会えていない。
「まったく普通の人たちだったよ。わたしより若い年齢で、二人とも教師をしているということだった。 彼女は子どものころはおとなしく手がかからなかったのに、十代になって突然反抗的になって家出をくりかえしたらしい。―― 初めて会った娘の恋人がこんな年寄で驚いていたが、彼らよりもとりみだしていたから、気遣ってくれたよ。・・・葬儀もここでわたしが取り仕切ることにしたんだ。普通の聖堂教のね」
「普通の聖堂教ということですね」
「ああ。ただ・・・なんというか、すこしばかり彼女に無関心すぎるかもしれない。彼女が初めて家を出たのは十四のときらしいが、しばらく家出だと気づかなかったと言っていたし、役者志望だということも知らなかったらしい。・・・・二人とも、娘が事件をおこさなければ問題ないという認識でいたっていうんだ」
すこし顔をしかめカップに口をつけた。
「・・・彼女は十八でこっちに出てきたと言っていたから、それまでに繰り返した家出のどこかで、変わった信仰に出会ったんだろう」
「つまり、あなた以前の恋人の信仰に影響されたと?」
ジャンの多少意地の悪い質問に、男はカップをかたむけると、余裕ありげに微笑んだ。
「ふむ、『恋人』ねえ・・・」と、ジャンとザックを見比べる。
「・・・もし、―― きみたちの恋人がある日、今日から《つながる》セックスは嫌だといったら、どうする?その若さで、我慢できるかい?」
「・・さあ・・・どうでしょうね」
ザックと見合ったジャンが代表して答えれば、男は満足気に肩をゆらす。
「無理だ。わたしだって、あと二十若かったら無理な話だ。いくら気持ちよくしてくれると言ったって、恋人どうしなんだ。そんなごまかしで通用する問題ではないだろう?そんな女性と普通の相手がうまくいくとおもうかね?―― わたしの勘では、彼女とここまでの『関係』になったのは、この、わたしだけだ」
「それって、『知識と経験』でわかったってこと?」
ザックの言葉に眼をあげた男は、にらむようにしっかりとうなずく。
「それ以外に何が必要だ?―― あきらかに、彼女は口ですることに慣れていなかった。わたしと出会い、初めてそのてのことをするようになったんだ。それほど、わたしは愛されていたし、わたしもそんな彼女が愛しかった。―― その彼女が、なぜ?どうしてわたしの前からいなくなる必要がある?なぜ、あんなことにならなければならない?認めない!わたしは認めない!!彼女がこの世界からいなくなっただなんて!」
興奮する男が戻したカップが、がしゃん、と派手な音をたてた。




