信心はない
「その『ゴシップ』で、宗派関係なく寄付をするって聞いたことがあるけど、信心深い無宗教ってこと?」
ルイらしい皮肉にウィルは肩をすくめた。
「うちの父親いわく、彼には、『どこの神様も敬うような気持ちはなく』て、あれはただ単に、いろんな『神様』をコレクションしたいだけだって。 ―― 『信心』なんて、かけらもない男だって、さんざん言ってたよ」
「おやじさん、友達なのかい?」
ジャンの質問に苦笑がかえる。
「いや。心底嫌ってるって感じかな。旅からもどったノース卿から、学者を紹介してくれって頼まれたらしい。 昔から知り合いではあるけど、ちゃんと話したのはそのときが初めてだってさ」
「ああ、おやじさん、どっかの学校の理事長やってるんだっけ?」
「名前を貸してるだけだよ。・・・で、――― 紹介した学者が死んじゃった」
みなが不意をつかれたように顔をあげる。
反応を知っていたようにウィルが困った顔で両手を広げた。
「事故死だよ。大通りのタクシーの前に何かさけびながらとびだした。 みんなが見てたんだ」
「自殺ってことか?」
ウィルは肩をすくめた。
「うちのおやじは、ノース卿に紹介したせいで、彼はノイローゼになったって言ってたけどね。―― あの城にずっといたからだって」
「軟禁ってこと?」
ルイが顔をしかめる。
「いや。出入りは自由だったみたいだけど、その学者が自分で出なくなっちゃった」
なんだそりゃ、とケンがつまらなさそうに組んだ足をテーブルにのせるのを、払い落としながらジャンが言う。
「きっと、貧乏な学者に金と施設を与えて、なにかよほど夢中になれる材料を与えたってことだろうな。―― ところで、何の学者?」
「考古学、だったかな?」
やりとりを、考え込むように聞いていたバートに、ジャンが「何かひっかかるか?」と顔をむける。
班員の視線を集めた班長が、無表情な顔をジャンにむけて言った。
「そうだな。年末までに、テクニックと色気がそろうといいな」
「よけいなお世話だ。あ、今決めた。おれ、あんたんちに、年末から年始まで泊り込むからな」




