いち族
ふりむかれたウィルがザックに笑いかける。
「ぼくの一族じゃないよ。 ハロルド・デ・ノース伯爵の土地だ。 まあ、国有地のほとんどが、元は貴族の土地だからね。デ・ノース一族も今の当主が最後の一人だから、彼がこの世を去れば、残りの森も国に没収されるだろうけど」
その当主は今いくつなんだい?とルイが腕を組む。
「たしか、もう七十はすぎてるはずだよ」
「じゃあ、もうすぐバーノルドの森はさらに広がるねえ」
「それが、そうでもないと思う」
もったいぶったそれにみんなの視線を集め、ウィルは前髪を払って微笑んでみせた。
「どうも、彼、とっても若い恋人がいるらしくてね。年々若くなってるって噂だ」
「そりゃ毒を盛られる日も近いな」
ケンの一言に、失笑がもれ、うらやましいもんだ、とジャンが本音をもらした。
「やっぱ、そのじいさんにあっておれにないものって、人生経験?」
「テクニック」
「色気」
ケンとウィルが即返し、みんなが笑ったところで、笑わない男が疑問を挟む。
「ノース卿は、まだ、あの城に住んでるのか?」
「そうなんだよ。バートはあの城に行った?ひどい荒れようだろ? みんながどこかもっといい場所に移るようすすめてもダメらしい。 元々『変人』で有名だけどね」
変人て?とザックが興味深そうに顔をむける。
「あそこの一族は、なぜか短命でね。・・・親のあとに兄弟が死んで、他に親戚も残っていなくて、デ・ノース一族が自分しか残っていない状況になったとき、ハロルドはすぐに、『自分でノース一族はおわりだ』って宣言をした。なんと、当時まだ二十代だよ。同性愛者じゃないことは、派手な遊び方からよく知られていたけど、使用人もほとんど解雇しちゃうし、これは絶対に自殺するつもりだろうってみんな思ったらしい」
「した?」
「しない。 三十代になって派手な遊びはやりつくしたから、世界中をみてくるって急に旅に出て、これも無事に帰ってきた。・・・それから今度は突然信心深くなって、各地の教会を訪ねて自分流の教会がほしくなって、城に教会を作っちゃったって、―― 聞いたことないかい?有名なゴシップだよ」




