数日ねむれない
残酷描写あり
「・・・人生初で、数日眠れないっていうのを味わったよ」
閉じた目元をもむように、ウィルは声を落とす。
ゴールだと思った赤い風船の下、そこに『用意』されていたのは、この先続く事件の最初の犠牲者で、その遺体には首がなく、足首から木につるされるというひどい姿だった。
「まあそりゃ、おまえが、少しはまともだっていう立派な証しだ。・・・まさか、それでこの仕事を選んだとか?」
ニコルの問いに首を振ったウィルは何かを言いかけ、考え直すように口を開いた。
「―― とにかく、まあ、これが連続殺人の始まりで、どういうわけか、ぼくはその事件にまた参加してるわけさ。今度こそ、終わりにしたいよ」
大きく息をつくのに、なだめるようニコルは背中をたたいた。
昨日、バーノルドの森でまた発見された遺体の収容にA班がよばれたのは、この事件では、遺体発見現場には警備官の強硬隊も呼ばれるように話がついているからだ。
事件性を考慮し、警察官と警備官はお互い協力する態勢をとることが求められている。
ただし、警察官と同じように動ける警備官は、警察長官に選ばれた一班だけ。
基本的には警察官の捜査が優先され、警備官の捜査は、その警察官がとりこぼしたことを再捜査してさがす『掘り当て』というものしか許されていない。
今回のバーノルド事件の担当は、強硬隊のA班に決まった。
この国でいちばん有名な殺人事件に、自分がかかわることになるとは思ってもいなかったザックは、今までまったく興味本位でしかそれをみていなかったことを、少し恥ずかしく思った。
あの、かわいそうな遺体を実際目にしてしまうと、とにかくどうにかしないと、と焦ったような気分におそわれる。




