風船
肌寒い秋の朝、まだ太陽ものぼっていない街中に、端末機を手にした人間があふれ出た。
『ジャック』から『端末機』の特定のメッセージページをみるように指示があり、さらには公共の交通以外使用禁止を受け、言われた通り、みんなが赤いペンとビニールの接着テープを用意していた。
だされた問題から《チェックポイント》を見つけ出し、真っ先にその場所ついた人間が、写真をとってジャックに送り、チェックポイントとして合っていれば次の問題をもらえる。
持ってきたテープには、メッセージリンクで使う自分の《ネーム》と端末機の連絡番号を書き残し、次に到着した人間が端末機でその人間と連絡をとり、次の問題を教えてもらうというゲームになっていった。
参加者はどんどん増え、チェックポイントには人だかりができた。
すぐに、平日の朝のその集団に興味を抱いた暇人が、そのまま参加し、さらにふくれあがる。
『不審な集団』たちの通報を受けた警察官が尋問をはじめると、それを知った出題者の『ジャック』が、こんな“メッセージ”をあげた。
『 まったく、警察官もびっくりのみんなの熱意には参った!こうなったら、その警官たちにも、平等なチャンスをあげなくちゃね。
最終目的地には、きみたちが 《 今までみたこともないようなもの 》 を、ゴールに用意しておかなくちゃ!
ここから先は問題ナシで場所を教えるよ、みんなそろってたどり着いてほしい。
それじゃあみんな、しっかりと道順をテープで示して、たくさん貼ってくれよ。
たくさんたくさん、他の人も招待しちゃおうよ! 』
「・・・なにが、『招待しちゃおう』だ」
あきれたニコルのため息に、ウィルは口の端をさげ、そうだね、と同意した。
「出勤時間で動き出した街中の注目も集めて、ぼくたち馬鹿は調子に乗ってた。 楽しいお祭りに参加してると思ってたんだ。だから、あちこちにテープを貼って、警察官の質問にも『クイズ大会なんです』なんて答えて・・・、いつのまにか『指示』に変わったことにさして疑問も持たずに、言われたとおり、―― バスに乗った」
「あ!いま、思い出したぞ。たしか、あのとき、・・・十二歳の最年少参加者も現場にいたって。もしかしてウィル、テープを貼っただけじゃなく・・・」
ニコルが言いかけたそれに、さすがに親父に殴られたよ、とウィルは左の頬を軽くたたいてみせた。
まるで、貸切のような状態になったその長距離バスが目指すのは、《バーノルドの森》しかなかった。《ゲーム》の最終地点をめざす見知らぬ同士が、わくわくした顔で、森への到着を待ち、バスの窓から見えはじめた重なる木々を、ゆびさした。
「 あ 」
ふいに、だれかがそれを見つけた。
―――― 赤い風船
「バス停で降りても、その風船が、葉を落とした木々の間にみえかくれしていた。―― きっとあれがゴールの目印だって、みんないっせいに走り出した」
浮かれてさわぐ一団を待っていたのは、一人目の犠牲者だった。




