バカな騒ぎ
じょうだんじゃねえ、とニコルが珍しく荒い言葉を吐き捨てた。
「これで、五人目だ。『バーノルドの森事件』で、五人目。―― いまでもはっきり覚えてる。はじめの事件のとき、十二年前、おれは十六歳のガキで、専門学校生だった。《研修》っていう名目で、生徒はみんな、この事件の捜索にかりだされた。・・・一人目のケイト・モンデルのときだ。覚えてるだろ?―― 商店街の壁や、外灯の柱、公園のベンチに駐車中の車にまで、ビニールテープがはられまくったあの『さわぎ』」
「覚えてるもなにも、ぼくはそのテープを貼りに行ったよ」
すまなそうに手をあげた金髪の男を、みながおどろいて振り返る。
「ほう、そうか。ウィルはあのバカ騒ぎの中にいたのか?まったくどんなクソガキだったのか想像がつくぜ。 おまえみたいに《メッセージ》で犯人にあおられたやつらが、こぞって端末機片手に、《どこどこに行け》ってテープを街中に貼りまくった。まるでこりゃお祭りだっていうみたいにな」
丸い目でぎろりと睨まれ小さく両手をあげた男が、説明する。
「そう。二コルの言うとおり、《PCメッセージ》であおられた馬鹿なぼくたちは、ちょっとしたお祭り気分だった。操られてたのに気付いたのは、ずっと後になってからだよ・・・。みんながお祭りの《決まり事》みたいな感覚でメッセージにしたがって、そろって、バーノルドの森を目指した。いや、べつにPC上に地図がのせられたわけじゃないし、『バーノルド』なんて言葉、どこにも出てこなかった。ただ、指示に従うとそこに行きつくようになってたんだ」
金髪の男が前髪をさわることもなくうつむくのをみながら、子どもの頃にPCを触ることも許されなかったザックは、ひとり淋しげにPCにむかう小さなウィルを思い浮かべた。




