野犬
前髪をいじりながらウィルが資料写真を指ではじく。
「今回の《体》のほうは、ひどかったね。―― バーノルドに野犬がいるなんて初めて知ったよ」
飼い犬とは顔つきも体つきも異なる『犬』たちが檻に入れられている写真に、ジャンもうなずく。
「どうもここ数年、あの自然保護区の森に犬を捨てるやつがいるらしい。《保安官》もパトロールのとき、保安犬もつかって保護するようにはしてるらしいけど、あの広さじゃ仕方ないだろ。保護し損ねたのが繁殖して、今じゃ群れをつくるまでになって野生化してるから簡単につかまらないんだとさ。―― で、昨夜はその犬たちがあまりに騒いでるっていうんで監視所にいた保安官が見に行って、遺体を見つけた」
「その《体》のほうの身元は?」
ニコルの質問に、いやそうに顔をしかめたジャンが端末機を操作した。
「またしても身元を確認できるものが入った本人のバッグがすぐそばに転がってた。毎回だぞ?犯人は最初から被害者の身元を隠そうなんて思ってねえわけだ。ったく、馬鹿にされてるな。―― とにかく、今回も行方不明の捜索依頼の中からすぐ見つかった。指紋も身体的特徴も一致。まちがいなく、国道沿いのレストランで働いてた二十一歳の女性、エミリー・フィンチだ。俳優をめざしてたらしい。一人暮らしだが、失踪してすぐに恋人から捜索願が出されてる」
連絡がとれないからおかしいと警察に届けられたのが仕事を無断で休んだ当日。
家の中は荒らされた形跡はなく、故郷にも帰っていないことが確認され、両親がこちらへ出て来て、改めて正式に捜索依頼が出されたのが、いまから三か月ほど前。
「このままじゃあ、彼女の頭は、また三年後、次の、頭のない新しい遺体といっしょに出てくることになるね」
ウィルのその言葉に、ザックはをまた、唾をのみこむ。




