くやしさといらだち
それぞれが何かをかみしめるように黙っている中、まだ、世間と同じような情報しか持ちあわせていないザックが、どうして三年なんだろ、と資料の紙をめくった。
みながおなじように手元の紙に目を落とし、肩をすくめあう。
ジャンが話を続けた。
「まったくわからんが、なにか意味があるのかもな。 ―― 昨日見た通り、ナタリの『頭部』も、いつものように、木の上にあった。―― その理由もあいかわらずわからない。が、とにかく、おれたちがこれから捜すはずだったナタリは、・・・ようやく“そろった”わけだ」
「え?毎回、頭は木の上にある?」
ザックの問いに、これはニュースでどこも流してないから言っちゃだめだよ、とウィルが口元に指をたてた。ルイがうなずく。
「これは、犯人しかしらない情報として隠してるんだよ。で、またしても被害者の頭部は、おれたちが探し出す前に、―― むこうからさしだされたってわけさ」
ゆっくりとした口調だが、声には怒りがこもっている。
一定の周期でおこるこの事件を、またしても阻止できなかった悔しさと苛立ちは警察官にかぎったことではないのだとザックは気づく。
『バーノルドの森事件』では、遺体の《発見》が、すでに、次の事件の予告ともなっているのだ。
遺体発見現場は毎回バーノルドの森の中。遺体はどれも身元を示す持ち物を持ったままで、みつかるというのに、黒いドレスの仕立て先はもちろん、犯人につながりそうな物証も証言も見つからない。そのうえ被害者たちはみんな殺害の数か月前から失踪している。
どの女たちもある日突然姿を消し、数か月後に無残な姿で発見される。
被害者同士につながりはいっさいみあたらず、結果、事件は不特定の若い女性を狙った犯行とされている。
ただし、前回の被害者、ナタリ・キットソンだけ、つきあっていると思われる男のもとへ出向くのだと言い残しており、そこで事件に巻き込まれた可能性が高い。
なのに彼女の交友関係をあたってもその『男』は浮上せず、彼女の目指した場所もわからずじまいとなっている。
今回警察からまわってきた捜索要請も、三年ごとの周期が近づくと、警備官へ流れてくる仕事だ。
まだ見つかっていない娘の遺体の『残り』を、一日でも早く探してほしいという家族の希望でもあるし、警備官までも大量につぎこみ、つぎにおこる同じ犯罪を抑止するという意味でもあるのだが、いまだ『抑止』にはつながらず、またしても今回、新しい犠牲者をともなって、未発見の頭部を、《犯人にさしだされる》という結果になってしまった。




