撤収
念のため通信機で確認をいれる。
「あー・・・、班長?犯人がのたうちまわってるけど?」
ザ、と返信が入る。
『 足にいくつか穴があいたんだろ 』
「・・・あ、そう・・・」
思っていたよりも、やさしい処置だ。あけたのあんたでしょ、なんて聞きはしない。
「じゃあ、これでアガリ?」
『 当然だろ 』
「そりゃよかった」
いっているうちに通信機でその会話をしている『班長』が橋の上に姿を現し、目も合わさずに通り過ぎる。
次にあがった短髪の男が欄干に立ったまま装備をときはじめ、最後にあがってきた金髪の男に背中をおされて落ちるように地面に降りた。
橋の上にいた男たちと仕事の出来をたたえ合い、すばやく撤収しはじめる。
「で?さっきのって、恋人?」
この班の一番の新人であるザックはロープを巻き取りながら、若者らしくにやりとしてみせ、ジャンの顔を見た。
書類に書き込みをしていた班の『副長』は、ちらと目をあげ、耳がいいな、とからかう。
「だって、あんなにすまなそうな声で、あんな顔して電話してりゃあ、気になるよ」
「なるほど。おれの弱みを握りたいってことだな」
「ち、ちがうって、」
新人があわてて否定するのに笑った上司は、おれの恋人じゃねえけど、と書き上げた書類をボードにはさみ、新人の頭をたたいて通りすぎる。
「ええっ?ちがうのかよ?だって、――― 」
そのとき、黒い四輪駆動車が、タイヤをきしませる勢いで橋を通過。
班員たちが手をあげ苦笑で見送った。
「え?いまのって・・・」
ザックがあたりを見れば、班員がひとり足りない。
班長である男が。




